第87話大人たちの相談は続く 元は不思議で仕方がない

文字数 1,255文字

中村による博多の菊池一家の説明が終わり、全員は厳しい顔。
「尚のこと、慎重に博多と千歳烏山は一定期間監視させます」と、中村が付け加えると、一様に頷く。

本多佳子は、全員に深く頭を下げた。
「そもそも、こんなことになったのは」
「元君を施設に入れたことから、出して田中に預けたことも、私の責任です」
「名古屋での評判を恐れるあまり、気にするあまり、元君にはとんでもないことを」
「死んで謝っても許されない、悪魔のような祖母でした」

本多美智子も顔を下に向ける。
「私に原因があるの」
「山岡さんを好きになって止められなくて、それが原因」
「生みの親の責任を、あの時、誰が何を言おうと貫くべきだった」
「元が・・・どれほど苦しくて寂しくて、辛い目に遭って来たのか・・・」
「何の助けもせず、何の力にもなれず、自分だけは・・・」

マルコ神父とシスター・アンジェラも辛そうな顔。
マルコ神父
「晃子の性格をわかっていながら、養子に出すことを止められなかった」
「施設長が何を言っても、身体を張っても止めるべきでした」
「元君の苦しみの原因は、私にも重大な責任があります」

シスター・アンジェラは、涙をホロホロと流す。
「施設から出る時・・・元君は出たくないって泣いて」
「あの我慢強い元君が・・・」
「感受性も鋭いから、晃子の性格と、千歳烏山での生活を見抜いてしまったのでしょう」

少し黙っていた中村が口を開いた。
「今後の法律的な対応は、お任せください」
「田中さんとの養子縁組の解消や、菊池晃子との関係の始末」
「菊池晃子についてはパリでの殺害なので外務省の知人に、こちらの事情を伝えて便宜を図ってもらいます」
「ただし、今後の元君の姓と申しましょうか、戸籍については、血縁関係者と元君で納得して決める必要があります」

マルコ神父が本多佳子と本多美智子を見た。
「もう少しすると、山岡氏が教会に到着します」
「まずは、そこで相談を」
「今までの事情は説明しますので、それからになりますが」

本多佳子と本多美智子は、マルコ神父に深く頭を下げた。
本多美智子
「難しいのは元君の気持ちです」
本多美智子
「怒るどころか、見向きもされなくなる・・・それも覚悟します」

シスター・アンジェラが、二人をなだめた。
「いずれにしても、元君は田中の姓ではいられません」
「どれほど辛くて怒られようと、前に進まないと」


別室で、深刻な話がされている間、元はベッドに寝転んで、不思議で仕方がない。
「何故、見知らぬ本多佳子さんと、かの有名な本多美智子が教会にいるのか」
「母と娘は、どうでもいいけれど」
「それに何故、あれほど泣く?」
「音楽はさすがだった」
「俺と感性が近かった、少し甘めか?」
「あのほうがニューヨークで受けるのか?」
「でも、思い切り弾けたのは久しぶりだ」
「美智子さんがトッププロだから?」
「他に理由は考えられないけれど」

マルコ神父に聞かれたことを思い出した。
「巨匠の山岡さんか・・・何故、突然?」

しかし、いくら考えても、わからないことは、わからない。
元は練習の疲れもあった。
そのまま、眠ってしまった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み