第18話元は胃の痛みで酒を飲み、前後不覚に マスターの動き

文字数 954文字

翌朝午前10時、元は起きた途端、酷い胃の痛みを感じた。
「薬はない」
「薬局は・・・歩けそうにない」
「胃に穴でも開いたか」
「保険証も、どこにあるかわからない」
「内科医?見たこともない」

とても起きられないので、ただ痛み苦しむだけ。
「このまま死んじまえば、楽になるのか」
「飲みが足りないから、死ねないのか?」
「それなら、飲めばいい」

元は、床を這って進み、バーボンを原液のままガラスコップに入れ、そのまま胃に流し込む。
「ぐ・・・痛てえ・・・胃が焼ける」
「目が回る・・・」
「痛みか?酔いか?」
「どちらでもいい、どうせ起きられない」
「ぐ・・・天井が回ってる」
「ついにお迎えか?」

よろけてテーブルの角に頭をぶつけた。
気が遠くなるほどの痛み。
元は、うれしさを感じた。
「ようやく死ねるか」
元は、フローリングの床に倒れたまま、意識を失ってしまった。


同じ時間、マスターはクラブにいた。
マスターの前には、中年のスーツ姿の男が一人座っている。

マスターは、そのスーツ姿の男に、頭を下げた。
「ああ、中村さん、悪いね、呼び出したりして」
「たいした金には、ならねえかも」

マスターから頭を下げられた中村は苦笑。
「水臭いことを、俺とマスターの関係だよ」
「俺もね、元君の演奏が好きでさ」
「役に立ちたいよ、金なんて元君の演奏で充分」
「あの業界に詳しいダチもいるしさ、何とか、調べてみるよ」

中村がクラブを出ていくと、エミが入って来た。
「マスター、珍しい時間に店にいるね」
「昨日は泊ったの?」
「それから今の人は?」

マスターは首を横に振る。
「そんな泊まるわけねえだろ・・・」
「今のは、ここの客で、中村って探偵」
「元警視庁の凄腕さ」

エミは意味不明な様子。
「探偵?浮気調査?」
「独身のマスターが何で浮気調査するの?」

マスターは呆れたような顔。
「つくづく、お前はお目出たい」
「だから元君がよりつかない」

エミは、機嫌が悪くなった。
「うるさいねえ、気にしていることを」

マスターは、グラスを磨き始めた。
「元君の過去で、少し気になることがあってさ」
「かつて、お客から小耳に挟んだことがある」
「それを詳しく確かめてもらおうかと」
「ただ、元君には秘密だ」
「ユリとミサキにも同じことを言うけどな、とにかく秘密にしろ」

エミは、マスターの表情に、ただならないものを、感じ取っている。
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