第56話教会でのリハビリ生活

文字数 1,107文字

入院2日後に、元の再発行された学生証を、大学職員の三井が届けに来た。

三井
「やはり警察との現場検証とか、事情聴取になると身分証明書も必要だから」
元は、少し頭を下げる。
「ご面倒をおかけして、申し訳ないです」
ただ、頭を下げたり、声を出すと、脇腹に痛みが走るようで、顔がゆがむ。

三井は、元を手で制した。
「各講義の欠席も届けておいたから、まずは治療に専念して欲しい」
「無理な動きをすると、逆に長引く」
元は、目を閉じて「本当にありがたくて」と、何度もつぶやく。
しかし、三井を立って見送るのは、痛くてできないので、目で感謝の気持ちを伝えるだけだった。


元は、3日ほどで、首を動かす、または声を出しても、それほど痛みを感じなくなった。
そのため、次の日に、元警視庁で探偵の中村とシスター・アンジェラが付き添い、鎌倉の警察と由比ヶ浜の現場検証と事情聴取を行った。
尚、事件の動画もあることから、一連の作業は実にスムーズに終わった。

事情聴取の後、警察の担当者が元に確認をする。
「今後は、中村さんが弁護士で、かつては凄腕の刑事なので、任せますか?」
元は、「他に頼れる人もいませんし、よくわからないので、お願いすることになります」と素直な返事。
中村は最初からそのつもりなので、警察の担当者に、軽く頷いている。

中村が元に説明をする。
「強盗致傷罪になるので、重罪」
「あのビデオを見る限り、犯人2人に情状酌量の余地はない」
「だから、裁判になっても、減刑の可能性は厳しい」
「蹴りも酷い、骨が折れ、内臓に刺さる可能性もあった」
「かなりな懲役と罰金になる」

元は、答えが難しいらしい。
「今日の段階では、中村さんにお任せします」
シスター・アンジェラも元に同意。
「申し訳ありません、中村さん、お願いします」
それでも、付け加えた。
「簡単に示談にはしないほうがいいかな、あまりにも身勝手な犯行なので」


鎌倉警察との現場検証と事情聴取を終えた3日後から、元は教会の広い敷地を、春麗に付き添われて散歩ができるようになった。

春麗
「歩いても、もう脇腹は痛まない?」

「ありがとう、警察の時は、痛かったけれど」
「今は、痛みが軽くなった、春麗のおかげ」
春麗は笑う。
「違います、神様が元君の中に入って治しているの、私はそのお手伝い」

また少し歩いて、春麗が元に聞く。
「腕はあげられる?」

元は、ゆっくりと腕をあげる。
「うん、何とか」
「でも、まだ少し痛い」
「我慢できないほどではない」

春麗は頷いて、元とまた散歩。
「教会のオルガンを見ようか?」
「見るだけでいいよ」

元の目が光った。
「弾ければ弾いてもいいのかな」

春麗は、クスッと笑う。
「さあね・・・痛いなら無理」

元は悔しそうな顔になっている。
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