第99話事情の説明と元の怒り

文字数 1,124文字

演奏会は聴衆を大きな感激に包み、終了した。
主な関係者たち全員での昼食の後、元は山岡保、本多美智子、そして本多佳子、そして探偵の中村、マルコ神父とシスター・アンジェラと別室に入った。
尚、マスターと音楽雑誌社の杉本、美由紀と奈穂美は隣の部屋で待機している。
また、春麗は一旦紅茶を配り、同じように隣の部屋待機となった。

まず、マルコ神父が探偵の中村に目で合図。
探偵の中村により、元が知らない養父母の田中夫妻の状況が端的に説明された。
元は、その状況を聞き、青い顔に変わった。
その元に、探偵の中村が「心配はいらない、元君が何かをする必要はない、全て私が解決の段取りをする」と言い切る。
元は、そう言われると、「わかりました、今の世間知らずの私ではお願いするとしか・・・」と頭を下げるのみ。
探偵の中村は千歳烏山の家についても説明。
「土地も建物も、実は、そこに座っておられる本多佳子様のもの」
「え?」と驚く元に、探偵の中村は名古屋の本多家と養父の田中の関係を説明する。
そして、そのまま山岡保と本多美智子に促し、「元の出生の真実」を告げさせた。

元の顔があっという間に、真っ赤に染まった。
「勝手に捨てて・・・」
「また・・・勝手に拾いに来た?」
「俺は、そんな程度の?」
「どれほど・・・苦しい目に・・・」
「何が弟子として?」
「ふざけるにも程がある」
「そこで・・・はいはい・・・拾ってくれてありがとうって・・・言え?」
「マルコ神父もシスター・アンジェラも知っていて・・・まるで馬鹿にされたみたいじゃねえか!」
「こんな話なら、今日演奏なんてするんじゃなかった!」
「一瞬でもその気になった俺がアホらしい!」
「由比ヶ浜で、そのまま死んじまったほうが、まだマシだ!」

元の怒りを山岡保は苦し気に目を閉じて聞き、本多美智子は、オロオロと泣く。
本多佳子は、真っ青な顔。
ただただ、「ごめんなさい」を繰り返す。

マルコ神父とシスター・アンジェラは。元を見つめていたけれど、ゆっくりと口を開いた。
マルコ神父
「元君の怒り、憤りは、全くその通り」
「ただ、こうしてここに集ったのも、神の配慮」
「神は、由比ガ浜で元君が命を落とすことを許されなかった」
「元君に、生きてもらいたかった」
「酷いいきさつは確かにある」
「山岡さんも美智子さんも、この私とシスター・アンジェラも重い罪人」

シスター・アンジェラが涙を流しながら、元に諭す。
「罪、過ちを犯さない人は、いません」
「しかし、生きる必要があるから、生かされているの」
「山岡さんも美智子さんも、おばあ様の佳子さんも・・・心の底で、強い負い目の中・・・生きて来られて」
「そして・・・マルコ神父のおっしゃられた通り・・・この私も・・・」

今度は元が下を向いて聴いている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み