第39話元は由比ガ浜でサーファー二人に倒れたまま暴行を受け、財布を取られる

文字数 1,097文字

由比ガ浜に倒れた元に、最初に近づいたのは、髪を金色に染めたサーファーが二人。

「おい、この小僧、倒れているぜ」
「ああ、頭から血を流して」
「酒臭え・・・酔っ払いか?」
「軽く蹴りでも入れれば、起きるだろ」

サーファーの一人が、元の脇腹をボンと蹴飛ばした。
優は、「ゲホゲホ」と呻く。
ただ、起き上がる気配はない。
その蹴った勢いで、元の財布がジャケットのポケットから出た。

もう一人のサーファーが、その財布を拾い上げ、ヘラヘラと笑う。
「中身だけ抜くぞ」
「万札もあるしな、これで今日の飲み代ゲットだ」
「弁天様のプレゼントかもな」
元の空財布は、海に投げ捨てられ、波にさらわれ、あっと言う間に見えなくなった。

「さて、あそこのヤンキー娘でもナンパ?」
「ああ、軽そうでいいや」

元の脇腹に軽く蹴りを入れたサーファーは、今度は手加減をしなかった。
うれしそうな顔で、元の脇腹を、思いっきり蹴り上げた。
元の赤い顔が、真っ青に変わる。
全く声が出ない。
ピクリとも動かない。

「死んじまった?」
「ああ、そうかもな」
「おれ知らねえ」
「おれも知らねえ」
「いいから、あのヤンキー娘のナンパだ」
「そうだな、周りにいるのは、年金老人ばかり」
「何の文句も通報も出来ねえさ」
「何か言って来たら逆にシバキ上げてやる」
「あはは、でっかい掃除機で全部吸い取っちまいたい」
「汚らしい、まるでゴミだ、年寄りなんて」

二人とも大笑いで元から離れ、由比ガ浜の駐車場に歩き出した時だった。

「おい!そこの二人!」
ヒビ割れたような、ドラ声が由比ガ浜に響き渡った。

サーファー二人は、キョロキョロとあたりを見回す。
「そこの二人って誰?」
「誰が誰に向かって言ってるの?」
「関係ねえよ、さっさとナンパだ」
「ビールが美味いよ、拾った金だ」

今度は、中年の女性の声が、聞こえて来た。
「そこのサーフボードを持った二人!」
「全部見ていました!録画も取りました」
「警察も呼びました!」

ようやくサーファー二人は、真顔になった。
「おい!マジか?」
「録画?警察?」
「何でもいいから、誤魔かせ!」
「あのガキを知り合いにしろ」
「馬鹿、俺、名前知らねえし」
「たまたま喧嘩になったって」
「財布捨てちまったから、名前わかんねえ」
「おい!モタモタするな!頭を使って何か考えろ!」
「うるせえ!お前が考えろ!」

モタモタとして動けなくなったサーファー二人を、数人の警察官が、あっと言う間に取り囲んだ。
「暴行、及び強盗だ」
「署に来てもらう」

ひび割れたドラ声の主は、神父服の大男、中年の女性は、シスターの服を着ていた。
サーファー二人を見ることはない。
神父服の大男が元を抱え上げると、シスター服の女性が元の顔を撫でている。
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