第67話元の家で(1)土地と住宅の所有者は

文字数 1,194文字

元としては、単なる荷物の運び出しだったけれど、美由紀と奈穂美がいるのが、とにかく解せない。
「どうして?中村さんにしか言っていないよ」
と二人に聞くと、
美由紀
「奈穂美さんと元君の家を見に来たの、そうしたら中村さんが立っていたから」
奈穂美
「お手伝いしたいの、それだけ」
と返って来るので、元にはどうしようもない。

戸惑っている元の隣に立ったのは、春麗。
「あなたたち、元君のお友達?」
「だったら、お手伝いして」
「その気だよね」
と、テンポよくたたみかける。

そんな一件はともかく、一行は元の家に入った。
家の中、二階の元の部屋に入っても、春麗の美由紀と奈穂美への、テキパキ指示は続く。
「美由紀さんと奈穂美さんは、衣類関係」
「ねえ、下着だからって恥ずかしがらない!」
「もっと、キチンと箱に入れて!」
などなど、元がハラハラするほどに、美由紀と奈穂美を完全にコントロールしている。

元は、机の周辺の教科書、参考書、PC等を箱に詰める。
春麗はギターとフルートも見つけたので、持って行きたいような顔。

若者たちが、そんな動きをしている中、マルコ神父、シスター・アンジェラ、中村は一階にいる。
マルコ神父は書棚を見ている。
「楽譜も多い、音楽書もふんだんに」
中村
「隣の部屋にグラウンドピアノがあります」
「防音設備もしっかり」
「ステレオもかなり本格的なもの」

シスター・アンジェラは、隣の部屋から戻って、再び書棚を見る。
「アルバム・・・あるわけないか・・・」
「田中夫妻が元君の写真を撮るぐらいなら、もっと面倒を見ています」

シスター・アンジェラは、その書棚を見ていて、鍵がかかった引き出しがあることに気がついた。
「何でしょうねえ・・・鍵をかけるほどの重要な書類かしら」
「元君が渡されたのは、家の鍵だけとか」

マルコ神父も諦めかけた時に、中村が隣のピアの部屋から戻って来た。
そして二人の聖職者の表情を読む。
「そこの引き出しですか?」
「想像がついています」

シスター・アンジェラは、中村の顔を見た。
「と・・・言いますと?」
マルコ神父も、中村の顔を見る、

中村は、そこで含みのある表情。
「聖職者様が、目を閉じていてもらえば、鍵を開けて中の物をご覧に入れます」

シスター・アンジェラとマルコ神父は、ためらわない。
しっかり目を閉じると、グキグキと金属音、
そして引き出しがスッと開けられる音。

中村は、低い声。
「マルコ神父、シスター・アンジェラ、目を開けてください」
「これが中身です」

マルコ神父とシスター・アンジェラが、目を開けると、大きめの封筒。

中村はゆっくりと話す。
「名古屋の本多家に行って来ました」
「封筒の表題通りです」
「中身は、この家の土地、建物の権利書、所有名儀は本多家のおばあ様の佳子様」
「それから賃貸契約書があります」
「貸主は本多佳子様、借主は田中達夫様、つまり元君の養父です」

マルコ神父とシスター・アンジェラは、胸の前で十字を切っている。
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