第24話深沢ピアノ講師のしつこさ 元の思い

文字数 1,216文字

探偵の中村は、近くのドラッグストアで薬箱を買い、店員に頼み、一通りの薬をその中に詰めてもらった。
その薬箱を持ち、元の家が見える位置まで歩いて来ると、中年の主婦らしき人が、玄関で騒いでいる。
「元君の知り合いか?」
「深沢って言っているから、例のピアノ講師か?」
しかし、家の中には、元もいるし、杉本女史もいるのに、玄関は開けないようだ。

「顔を見たくないのか」
「その事情も聞かなければ」
そう思って、しばらく家を見ていると、深沢が怒り出し、泣き出した。

「何よ!何様のつもり?」
「せっかく来てあげたでしょ?」
「いい話じゃない!」
「協力してもらわないと、私が困るの!」
「いい加減にしなさい!」
「あーーー!もう!」
「知らない!」

とうとう深沢は諦めたようで、泣きながら歩いて来る。
中村は、脇道で身を隠して、その深沢を観察し、騒いでいた内容を考える。
「赤くて、くどい花柄の服か」
「それだけでも、自己中心的な性格か?」
「とにかく元君が嫌がる話を、ゴリ押ししているらしい」
「何様のつもりとは、上から目線か」
「いい話?」
「協力してもらわないと、深沢が困る・・・」
「つまり、深沢が困るから、ゴリ押ししているのか?」
「ゴリ押しして怒って泣く、軽薄な女の典型だ」
「お嬢様育ちで音大に入って、普通の苦労を知らない」
「まあ、実際は聞いてみないと、わからんが」

中村は、深沢が視線から消え、さらに5分ぐらい経過してから、杉本にメッセージを送り、元の家に入った。
「まずは薬箱を買って来た」
「店員の、おすすめ通りで」
杉本がすぐに動いて、塗り薬やシップを元に施すと、元は「申し訳ない」を繰り返す。
また、杉本が痛み止め薬を渡すと、素直に飲んでいる。

中村は、処置が終わった元に聞く。
「ところで、さっきの人が深沢さん?」
元は、頷く。
「うん、しつこくて」
中村
「出ない理由は?」
元は下を向く。
「出たくない・・・答えにならないかな」
「顔も見たくない、声も聞きたくない」
「昨日も来た」

杉本が口を挟む。
「元君、違うかもしれないけれど」
「もしかして、地区の文化祭のこと?」
元はハッとした顔。
「どうしてそれを?」
杉本
「駅前のスーパーの前で、深沢さんが大きな声で」
「ママさんコーラス?」

元は、また下を向く。
「ずっと前に断った」
「そもそも、あの人の顔も見たくない、声も聞きたくない」
「でも、あの人は、俺がピアノを弾いて当然とか言い張る」
「毎日練習に来いとか」
「誰にも気づかれないとか」
「それが嫌で、ずっと家には戻れなくなって」
「もう、諦めたと思って家に戻ったら、また来た」

中村はため息。
「気が乗らない演奏は無理だろうに、プロでもないんだから」
「おそらく、元君が弾くとか、安請け合いして、断られて怒り、泣くか」
杉本は嫌そうな顔。
「スーパー前の高笑いは、元君の気持ちを何も考えていないから」
「まあ、軽薄な笑い声だった、結局、自分本位なお嬢様育ち」

元は、痛み止めの薬が効いてきたのか、眠そうな顔になっている。
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