第31話奈穂美が元の家に

文字数 1,223文字

翌朝、元は、チャイムの音で目を覚ました。
ぼんやりと時計を見ると、午前8時半を過ぎたところ。
「また深沢か・・・しつこいおばさんだ」
ベッドら降りようともせず、居留守を決め込もうとすると、インタフォンから若い女性の声。
「鈴木奈穂美です!」
「元君、いますか?」

元は、それでも起き上がらない。
「鈴木奈穂美って誰だ?」
「知らない女が、何故、俺の家を知っている?」
「深沢の関係者か?」
「なら、出ることはない」

そのまま目を閉じていたけれど、インタフォンからの声は続く。
「食べ物を持って来ました」
「中村さんと杉本さんから、お願いもされました」

元は、ようやくベッドから降りた。
「面倒くせえなあ」
そう思うけれど、お世話になったばかりの人を裏切るのも、よくないと思い直した。
「食い物だけ、まず受け取って」
「電話でお礼を言うかな」
ただ、どうにも鈴木奈穂美がわからない。
「単なる使い走りか」と思って、玄関を開けた。

「おはようございます!」
奈穂美は、大き目のバスケットを持ち、元気な笑顔。

しかし、まだ元には、誰なのかわからない。
「鈴木さんですか?」
「そうですか、中村さんと杉本さんに頼まれて」
「忙しいのに、申し訳ありません」
「私からも、中村さんと杉本さんにお礼を伝えておきます」
と、要を得ない応対。

しかし、奈穂美は、元のボンヤリ応対には付き合わない。
「それから、この間は、危ないところを救っていただいて、ありがとうございました」
と、頭を下げ、そのまま元の家に入ってしまう。

そして呆気にとられる元に、話を続けた。
「私の母が、元君に是非にと」
「で、一緒に食べてから、一緒に大学に登校しなさいと」

ここまで言われて、元はようやく思い出した。
「ああ・・・この前の?」
「いやいや、こんなことしてくれなくても・・・」
「恐縮します・・・あの・・・」
と、珍しく、シドロモドロになる。

奈穂美は笑顔のまま、元の家の中を歩く。
「ご立派な家ですって」
「私の家より、かっこいい」
「へえ、このテーブル・・・椅子もヨーロッパ風?」
「それじゃあ、朝ごはんを、ここに広げて」
「うん、お茶も持って来ました」
「ほら、早く座って、温かいうちに」
「母と私が握った特製おむすびと、玉子焼きと、きんぴらごぼうです」
「大き目に握ったから、お昼まで持ちます」
「10時過ぎに大教室で西欧中世史の授業です、それも考えて」

奈穂美の笑顔の言葉が、全く途切れないので、元は押されるばかり。
出てくる言葉も「はぁ」と「うん」以外にはない。

一緒に食べながら、奈穂美は話題を変えた。
「ところでね、深沢先生が家に来ました」
元の表情が少し曇る。

奈穂美は、構わず続けた。
「あの先生、とんでもなく自分勝手で、私の家には出入り禁止になりました」
「それで、元君も、そうしているでしょ?」

元が頷くと、奈穂美。
「その出入り禁止を貫きましょう、何があっても」
元は、素直に頷いた。

奈穂美は、ここで、ようやく安堵感。
何よりも、元の素直な顔を、本当にうれしく感じている。
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