第22話探偵中村と雑誌社の杉本は、元の家に入った

文字数 1,138文字

探偵の中村は、吉祥寺のクラブから、約20分で元の家に到着した。
雑誌社の杉本は、庭に案内、窓のカーテン越しに倒れている元を見せる。

杉本は不安を口にする。
「ただ寝ているだけなら、いいのですが」
探偵中村は目を凝らす。
「いくら何でも、フローリングの床で寝ないだろう」
「酒瓶が転がっている」
「酔って寝たのか、確認をしたいが」

そんな話をしていると、床に転がっていた元が、ピクリと動いた。
探偵中村は、すかさず、窓ガラスをドンドンと叩いた。
元がぼんやりと見て来たので、声をかけた。
「クラブの客の中村だ、マスターから届け物がある」

元は頭を押さえながら立ち上がった。
かすれ声で、「あれ?中村さん?今、開けます」も聞こえた。
探偵中村と、雑誌社の杉本は、胸をなでおろし、元の家に入った。

探偵中村がマスターから預かって来た物は、マスター特製の水出し珈琲。
元は「ありがとうございます」と、素直に受け取る。

また、元は雑誌社の杉本の顔も覚えていたようで、頭を下げる。
「中村さんと杉本さんは、お知り合いなのですか?」

雑誌社の杉本は、探偵中村と目配せ。
「そうですよ、ご明察」と言いながら、駅前スーパーで買った、カツサンドを元に渡す。

元の目は、カツサンドにくぎ付けになった。
「あの・・・これ・・・いただいても?」
雑誌社の杉本は、笑う。
「当たり前です、食べ物です」
「元君に食べてもらうために、持って来たの」

探偵中村は、かぶりつくようにカツサンドを食べ、水出し珈琲を飲む元に、言葉をかけた。
「マスターが、最近元君が来ないって、心配していてね」
「お客も減ったとか、元君がピアノを弾いていないと、すぐに帰って、売り上げが減ったと」
「それで、珈琲でも届けろと、いなかったら俺が飲んでもいいと」

元は、「それは申し訳ない」と言いながら、食事を続ける。

杉本が元に言葉をかけた。
「私も久しぶりで、たまたま元君を見たくなって」
「どう?最近は」

元は、下を向く。
「俺、馬鹿なんで」
「いろいろあって、マスターにも迷惑かけて」
「最近って聞かれても、馬鹿は馬鹿のままで」

探偵中村は、部屋を見回す。
「酒瓶が転がって」
「これは缶詰?」
「オイルサーディンと・・・これはチキンケバブ?」
「美味しそうだな」

元はようやく食べ終え、困ったような顔。
「飲み散らかし、食べ散らかしで」

杉本は、心配を口にする。
「子供の頃から元君を見ているけれど、栄養が偏っているのかな」
「顔色がすぐれないわね」
「余計なお世話?」

元は、神妙な顔。
「杉本さんには、お世話になって」
「また、心配をかけてしまって」
「馬鹿で半端者で申し訳ありません」

探偵中村は、それには応じず、元をじっと見た。
「来週あたりに、面白いことが起きる、今は言えないけどさ」

元は意味不明な顔。
杉本も首を傾げている。
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