第27話事態は動き始める 

文字数 1,119文字

ピアノ講師深沢は、結局、鈴木奈穂美を口説くことは出来ず、そのまま帰った。
奈穂美の母律子は、呆れるやら馬鹿馬鹿しいやらで、玄関に塩をまいている。
「あそこまで自分勝手とは思わなかった」
「自分が他人に、どう見られているなんて、全く考えないのね」
「自分さえよければいい、それだけの人」

奈穂美は、まだ不安。
「言い出したら、しつこい先生なの」
「また元君の家に行って、門前払いされて、家に来るかも」
「それが面倒」

母律子は、含み笑い。
「元君と一緒、居留守をしましょう」
「あまり酷かったら警察を呼びます」


その頃、元の家にいた探偵の中村に、マスターから電話が入った。
「中村さん、作戦成功だ」
「張らせていたら、早速、ボロを出した」
「しっかり写真も撮った、都議本人と秘書も」
「数社に声をかけたから、圧力もかけきれない」
「店の女の子たちの録音の証言もある」
「部屋でも、内緒で録音したようだよ」

中村は含み笑い。
「そうですか、来週が楽しみに」
そのまま話題を切り替える。
「元君が孤児院出身との情報があって」
「どうも、胡散臭い孤児院」
「そこも調べてみます」

マスターは、声を落とした。
「そうかい・・・でも、気を付けて」
「どんな輩が何をして来るか、わからない」
「まあ、中村さんはプロだから、釈迦に説法だけどさ」

マスターとの電話を終え、中村は杉本に、その「要旨」を伝える。

杉本は、驚いた。
「怖い話ですね・・・」
「秘密は守ります」
「私も、あの都議は許せないので」
「それから、孤児院の調査ですか?」
「確かに、危ない部分もあるのかな」

中村は頷き。話題を変えた。
「それはそれとして、元君の食生活だなあ」
「酒と缶詰だけか」

杉本は、少し考えた。
「何か、すぐに食べられる保存食を届けます」
「食べるか食べないかは、元君に任せて」
「そのメモを残して、今日は帰りましょう」

その意見に、中村も同意。
「では、出演料の残りで、保存食を頼みます」

二人で同時に元の家を出て、駅まで歩きながら、中村は杉本を誘った。
「杉本さん、差し支えなかったら、吉祥寺のマスターのところに」

杉本は、二つ返事で了承。
「独身ですし、何も心配いりません」
「上司からも、その情報は得ていて、確認しようかと」
「あの田中元が演奏しているクラブ、興味があります」

中村と杉本が、そんな話をしながら、駅前のスーパーに差し掛かった時だった。
一人の女子大生が、おずおずと声をかけて来た。
「あの・・・私、鈴木奈穂美と申します」
「大変失礼ですが、今のお話に、田中元君のお名前が」
「あ・・・私、同じ大学で、最近、すごくお世話になって・・・でも、家がわからなくて」

中村と杉本は、互いに目配せ、頷いた。
そして、鈴木奈穂美に、近くの喫茶で事情を聴くことにした。
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