第10話元は奈穂美をタクシーで送らされる

文字数 1,069文字

元と奈穂美が廊下を歩いて行くと、学生課の前に、朝の騒動で顔を見た職員が立っていた。
そして手招き。
「鈴木奈穂美さん、ああ、それから田中元君も、ちょっといいかな」

奈穂美は「はい」と素直に学生課に入るけれど、元は抵抗した。
「俺、何か悪いことをしました?」

大学職員は三井というネームプレートをつけている。
「いや、そうではないよ」
「事実の確認、と少しお願いがある、すぐに終わる」
元は、仕方なく、学生課の相談室に入った。

大学職員三井が美穂に確認する。
「以前から相談を受けていたストーカーだね、トランペットの彼は」
奈穂美は、震えるような声。
「はい、家の前まで来ます」
「今日は校門の前」
「電話とかメールとか、すごくて」

大学職員三井は、難しい顔。
「何度と注意はしたんだ、でも、学内では無かったから」
「今日は、大学構内、多くの学生の前」
「おそらく、厳しい処分になると思う」

奈穂美は、下を向いた。
「また顔を見ると思うと、怖くて、大学に通えません」
「私、何も悪い事していないのに」
大学職員三井
「奈穂美さんは交響楽団で、トランペットの彼はブラスバンドか」
「どういう接点があるの?」
奈穂美は顔を下に向ける。
「クラスの女の子と、神宮まで六大学の応援に行って」
「たまたま、ブラスバンドの近くの席で」
「彼が酔って絡んで来て、誘って来て」
「断り続けているんですが、しつこくて」

さて、そんな話が続くので、元は焦れた。
「あの、俺、帰っていいですか?」
「何の関係もないので」

大学職員三井は、申し訳なさそうな顔。
「ああ、ごめん」
「元君には、頼みたいことがあってね」

元は面倒で仕方がない。
「と言いますと?」

大学職員三井
「タクシーチケットを渡すから」
「このまま、奈穂美さんを家まで送ってくれないか」
「二人とも、午後の授業がないよね」

元はまたしても予想外の話。
「はぁ?何で俺が?」
大学職員三井は苦笑。
「二人とも、偶然にも千歳烏山で近いから」
「奈穂美さんのお母さんも心配していて」

これには、奈穂美も驚いた。
「元君、千歳烏山?」
元は、「ああ、そうだよ」とだけ。
ブスっと黙り込む。


それでも、元は大学職員三井と奈穂美の願いを断れなかった。
大学からタクシーに一緒に乗り、奈穂美を自宅に送り届けた。
奈穂美の母が出て来て「お礼を」と言ったけれど、あっさりと断り、振り返ることなく姿を消した。


「とにかく、これ以上は面倒に巻き込まれたくない」
「それより腹が減った」
少し歩いて、元は駅前のラーメン店に入り、ラーメンと餃子、そしてビールを飲む。
「食い物は一日半ぶりか」
それでも食べ切れず、半分以上を残している。
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