第104話その後の元と周囲たち、元の変化(完)

文字数 1,323文字

元は、退院までの4週間、父の山岡氏や母の美智子から、音楽理論等の講義を厳しく受けた。
また、演奏録画を見て、技術的に伸ばすべき課題、修正すべき課題も厳しく指摘を受けた。

退院後は「一家」で吉祥寺の新居に移った。
吉祥寺のクラブにも、その後、すぐに顔を出ようになった。
相変わらず、客を夢中にさせる中、演奏の質も変わった。
マスターいわく「全体的なパワーがついた」「心にグサッと来る鋭さもすごさを増した」
「ピュアであるけれど渋みも・・・いい感じだ」
ミサキたちは、聴衆として聴くことは許されたが、元に声をかけなかった。
理由は、誰に言われたわけではない。
彼女たち自身が、「余計なことは・・・と」そう決めた。
近づこうとしても、客が多く、足がすくんだ。
マスターも黙って彼女たちのしたいように任せた。

約一月後、クラシックでもデヴューした。
その場所は日本を選ばなかった。
山岡氏と美智子の「旧弊な・・・何でも出自を気にする、洗いたがる日本音楽界よりは・・・」との考えに、元自身も「できるなら」とそう願ったのである。
そして、オランダのオーケストラで山岡氏の指揮により、デヴュー。
曲はブラームスのピアノ協奏曲だった。
予想通り、大きな反響を呼び、その後ヨーロッパ、そしてアメリカでの演奏ツアーが続いている。

春麗は結局元をあきらめた。
やはり、万が一にも元を血生臭い事件に巻き込みたくなかった。
教会の中に隠れ続け、元の活躍を見守ることに決めた。

美由紀と奈穂美は、そもそものレベルの違いで、どうにもならない。

探偵の中村は、マスターを交え、クラブで音楽雑誌社杉本との間で新しい話が持ち上がっている。
杉本
「いろいろ、フル稼働したよ・・・面白かった」
マスターはニヤリ
「金はいらないと言っていたけれど・・・結果は・・・」
中村は苦笑い。
「・・・本多さんとか・・・山岡さんにも・・・今後のこともって言われてね」
杉本
「私もかなりなお礼・・・山岡音楽事務所の仕事まで・・・」
マスター
「悪い仕事でないさ、もらえるものはもらっておけよ」
マスターが話題を変えた。
「元君はともかくさ」
中村が気づいた。
「高輪?」
マスターは厳しい顔。
「真っ暗な闇で苦しみ続ける子供がいる」
「マルコ神父とシスター・アンジェラも、その気になっている」
「何とかしたいな」
中村
「しかしなあ・・・リスクもある」
杉本も、不安な顔になっている。


さて、元はそんな話とは関係なく、今は旅行をしながら演奏に専念する生活。
時々思うことがある。
「真っ暗な生活も苦しかった」
「でも、この光の中も大変だ」
「結局、由比ガ浜で死にきれなかったからか」
「神だか何だかわからないけれど・・・」

その元にも、あろうことか、気になる女性ができた。
父山岡保が指揮をするオーケストラのサブマネージャーのイギリス人女性キャサリン。
最初はツアーの中で英語を教わるだけの関係から、いつの間にか発展した。
山岡保も美智子も、「そのまま元を」と納得しているほどの「しっかり」した女性。
元は、決めかねている状態ではあるけれど、キャサリンと一緒の時は、顔が実に明るい。
・・・この先は・・・神の配慮としか、言いようがない。
                                (完)
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