第34話元と美由紀は吉祥寺のクラブに その後、元は姿を消す

文字数 909文字

マスターは、入って来た元と美由紀をカウンター席に座らせ、珈琲を置く。

元は殊勝にもマスターに頭を下げた。
「水出し珈琲をありがとうございました」
「それから、いろんな心配をおかけして」

マスターは。肩をすくめる。
「いいって、そんなの」
「一人のファンとしてさ、心配したいし、世話を焼かせてくれ」
「少し待ってて、飯を持って来る」


マスターが持って来たのは、具だくさんのたポトフ。
湯気が立っていて、香りが食欲を誘う。

美由紀は、バクバクと食べる。
「マジで美味しい、後で教えて」
「隠し味が何だろう、わからないけれど」
野菜嫌いの元も、普通に黙々と食べている。

半分ぐらい、食事が進んだところで、マスターが口を開いた。
「なあ、元君」
「中村さんと杉本さんがね、いろいろ動いてくれていてさ」

元は、マスターの顔を見た。
「動く必要が?何のために?」

マスターも元の顔を見る。
「高輪の教会の件だよ」
「今、行ってもらっている」
「少ししたら、こっちに来るかも」

元は、また同じことを言う。
「だから、何のために?」
美由紀が、少しハラハラするほど、口調がきつい。

マスター
「まだ確定ではないよ」
「でもな、とんでもないことが見つかりそうだ」
「だから、ここで間を置きたくない」
「あの二人が来るまで、ここにいてくれ」

元は、明らかに嫌そうな顔。
「俺の過去?」
「それはマスターにお世話になった」
「認める、感謝している」
「マスターが来てくれなかったらブタ箱だ」
「今でも、入っているかもしれない」
「でもね、俺の過去がどうって、マスターに何の関係があるの?」
「俺は、実の両親に、捨てられたんだ」
「お前なんかいらねえって」
「理由なんてわかんねえ」
「憎かったんだろ」
「生まれたばかりの俺が」
「どうせ、わけありの、捨てても死んじまっても構わないガキさ」
「だから、その通りで、いくつになっても、馬鹿は馬鹿」

マスターは腕を組み、元の言葉を聞き、美由紀は途中から泣いている。

元は、食べるのも途中で、席を立った。
「美味しかった、ありがとう」
「飯の礼は言う」
「でも、ここにいられない」
「そんな気分じゃない」
「もう来ないかもしれない」
「あの世田谷にも帰らねえ」

元は、そのままクラブを出て行ってしまった。
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