第76話元の部屋で マルコ神父とシスター・アンジェラ

文字数 1,189文字

マルコ神父は穏やかな声。
「今から、元君の部屋に行ってもいいかな?」
元は、拒む理由がない。
「お待ちしています」とだけ。

その数分後、マルコ神父とシスター・アンジェラが入って来た。

シスター・アンジェラは笑顔。
「元君、落ち着いた?」
元は、ただ、「はい」と言うだけ。
ついさっきまで、悩んでいたとは、言い難い。

マルコ神父の手に、赤ワインがある。
シスター・アンジェラが部屋の食器棚からワイングラスを取り出し、マルコ神父が全員に注ぐ。

マルコ神父はうれしそうな顔。
「いつか元君と飲みたいなあと思っていて、ようやく」

シスター・アンジェラは笑顔のまま。
「これは、ルーマニアのワインなの、味見してごらん」

元は、素直に少し飲み、驚いた。
「ブドウの旨味が・・・強い・・・」
「豊穣の大地?力強い」
「こんな美味しいワインは・・・初めてです」

マルコ神父は、グラス半分を一気に飲む。
「私には、これくらいが美味い」
「ルーマニアは自然が豊かな農業大国、農法も昔ながらで」
「自然そのままの味さ、技巧などは使わない」

シスター・アンジェラも、半分とは言わないけれど、それに近く飲む。

マルコ神父は本題に入った。
「ところで元君、指揮者で山岡さんの名前とか、演奏を耳にしたことはあるかな」

シスター・アンジェラは、じっと元の顔を見る。

元は、「ああ・・・」と、知っている様子。
「好きな指揮者の一人です」
「日本人の指揮者の中では、評価しています」
「リズムが正確で、それでいて、メロディーをしっかり歌わせる」
「大げさな演出をしない、でも、音楽は心に響く」
「ただ、演奏会には行っていません」
「パソコンの音楽アプリで聴いただけ」
「知っている音楽仲間からは、練習が実に厳しいとか、それは聞いています」

そこまで言って、元は首を傾げた。
「山岡さんが何か?」

マルコ神父は、満足そうな顔。
「いつか、この教会にも呼ぼうかと」
「それなら、元君の見解を聴きたいなとね」

シスター・アンジェラも続く。
「私も、好きな日本人指揮者なの」
「それで、彼は、教会での慈善活動にも取り組んでいて」
「今は、ミラノにいるみたい」

元が頷いていると、マルコ神父が話題を変えた。
「吉祥寺のクラブで弾いていたの?」

元は、その顔を青くする。
「マスターが、ここまで来られて」
「その話をお聞きに?」
元は下を向いた。
「ひどく・・・だらしがない男で・・・」
「罪深くて・・・」
その身体も震えている。

シスター・アンジェラが、元の手を握る。
「誰かに恨まれるようなことは、何もしていないんでしょ?」
「マスターが言っていました、誰も元君を慕いこそすれ、憎む人はいないとか」
「それなら、心配はいらないよ」
「それ以上のことは、神が決めます、神のご判断」
「元君が気にすることではないの」
「だから、全てを神にまかせなさい」
「罪があるかなないかは、神が決めます」
「元君が決めることではないの」

元は、黙って聞いている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み