第16話元は警察官に誤認で暴行され、連行されていた

文字数 1,335文字

元は店を出て元町を歩き、そのまま来た通りの路線で千歳烏山の家に戻ることにした。
「俺みたいな半端者には、世間様が歩く元町も中華街も似合わない、飯がタダになっただけで十分」
そんなことを思い、電車の中では、全て目を閉じ、人も風景も何も見ない。
千歳烏山に着き、また駅前の酒屋に立ち寄った。
冷蔵庫にあった関西の地酒と食事用に缶詰を買い、家に入った。
そしてシャワーを浴び、日本酒と缶詰で食事。
酔って眠くなったので、そのままベッドに。
朝まで、目が開くことはなかった。


さて、吉祥寺のクラブでは、マスターが三人の女に責められている。
ミサキ
「元君、ずっと来ないよ、喧嘩か何かしたの?」
ユリ
「つまんないよ、元君だけが生きがいなのに、知っていたら教えてよ」
エミ
「誰にも言わないからさ、あたしたちは口が固いよ、知っているでしょ?」

マスターは、うるさくて仕方がない。
「あのな、前も言っただろ?」
「来るも来ないも、元君の勝手だ」
「今、何しているかなんて、俺にもわからねえ」

エミは、半べそになった。
「また公園で酔いつぶれているとかさ、嫌だよ、そんなの」
ミサキは頭を抱えた。
「探しに行くって、場所もわかんないもの」
ユリは苦し気な顔。
「私たちも表の人間でないからさ・・・あまり聞きまわることも・・・ねえ・・・」

マスターも難しい顔になった。
「少し前までは、あれほど酔いつぶれることはなかっただろ?」
「暗い感じはあったけどな」
「顔を隠して、この店に来るようなことはなかった」

三人の女が頷くと、マスターは続けた。
「これくらいは言ってもいいだろう、俺も絡んでいるし」
「あのな、少し前に、元君は、ここらへんのポリ公に酷い目に逢ったんだよ」

ミサキ
「と言うと?元君が何かしたの?」

マスターは首を横に振る。
「いや、元君は任意同行でしょっ引かれた」

ユリはマスターの言っていることがわからない。
「じゃあ、何かしたってことでしょ?」

マスターは、また首を横に振る。
「いや、しょっ引かれた時から、別人の名前」
「田中元でなくて、名字は鈴木でか、名前も元でなくてさ、隆弘とか」

ユリは悔しそうな顔。
「それは誤認何とかってこと?」

マスターは頷く。
「まずいことに、元君は身分証明書を持ってなくてさ」
「連行したのが、まあ、頑固なポリ公で、元君を捕まえるで頭に血が昇って」
「身分証明書を持っていないから、元君が鈴木某ではない証明ができないとか」

エミ
「そもそも何の罪で?」

マスター
「街中でギターを弾いていた奴の名前らしい」
「ギターを弾き語りしながら、クスリも売っていたとか」
「元君も、昔はストリートでハーモニカを吹いたから、通報を受けたポリ公が早とちりしたのさ」

ミサキ
「マスターは何で詳しいの?それ」

マスターは水割りを一口。
「元君の両親は、海外」
「唯一、連絡先として、元君の口から出たのが、俺」
「だから、駆けつけた」

マスターは、ここで泣きそうな顔。
「まあ、任意同行って言ってもさ、酷いもんだ」
「元君は、そのポリ公に連行れる時に、俺は違う、別人って抵抗したらしい」
「そのポリ公に癇癪を起されて、ボコボコに殴られたみたいで、口の中を切って血を出して」
「これはその現場を見ていた奴の話だけどさ」

そのマスターの言葉で、三人の女の顔に、一斉に朱が入っている。
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