第83話元と本多美智子のデュオ 本多美智子は泣き崩れる。

文字数 1,163文字

元と本多美智子が始めた曲は、モーツァルトのヴァイオリンソナタ。
元の軽やかで正確な伴奏で、本多美智子は顔を紅潮させながら、自在にヴァイオリンを弾く。
華やかで、しかもしっとりとしたモーツァルトの世界がホール全体に広がっている。

美由紀と奈穂美は、驚くばかり。
美由紀
「・・・本多美智子さん?本物?マジ?」
奈穂美
「私の憧れの・・・神様みたいなヴァイオリニスト」
「まさか・・・ここで聴けるとは・・・」
美由紀
「元君も、完璧に合わせているし・・・」
「いや、元君が、実は本多さんをコントロールしている?」
奈穂美
「うん、時々、それを感じる」
美由紀は目を凝らした。
「気になる・・・本多さんと・・・元君・・・顔がすごく似ている」
「目尻とか、鼻とか」
奈穂美
「あなたも感じた?でも・・・まさか他人でしょ?」

演奏の途中で、音楽雑誌社の杉本が入って来た。
その杉本は、中村の隣に座り、「まさか・・・」と、ポツリ。
中村は小さな声。
「引き合ったのか、でも、元君はわかっていないよ」
杉本
「音楽は、超一級品、すごいや・・・さすがに」

春麗は、胸の動悸がおさまらない。
「私・・・この二人から離れたくない」
「ずっと・・・元君の近くにいられれば・・・」
しかし、不安もある。
それは、「自分が両親を殺された孤児である」ということ。
「仮に、元が実母の本多美智子や、実父の山岡氏に引き取られた場合、孤児の私を認めてくれるのか」、それを思うと、全く自信がない。

モーツァルトのヴァイオリンソナタが終わった。
元は立ちあがって、「ありがとうございました」と、頭を下げる。

本多美智子は、元を抱きかかえた。
「こちらこそ、弾きやすかった、うれしかった・・・すごく・・・」
そして、また泣き出してしまった。
「・・・ずっと・・・こうしたくて・・・」

本多美智子は、元が戸惑うくらいに、長く抱いた後、ようやく解放した。
「ねえ、もう一曲・・・いい?」
元は、「はい!」しっかりとした声。

始まった曲は。モーツァルトの「子守歌」。
しかし、本多美智子は、最初のフレーズで大粒の涙。
元が心配になるほど、身体も揺れている。

春麗が、椅子から立ちあがってステージに小走り。
元を手で制して、本多美智子を抱きかかえる。

元が声をかけた。
「本多さん・・・大丈夫ですか?」
「少しお休みに」

そんな本多美智子の状態を見て、シスター・アンジェラは考え込む。
「本当のことを・・・もう言ったほうがいいのか」
「でも本番前だと、元君にショックが強過ぎる」
「実母の気持ちとしては・・・泣くのもわかる」

春麗に抱きかかえられ、泣き続ける本多美智子を見ながら、元は戸惑うばかり。
「俺・・・変なことしたのかな」
「俺が下手過ぎて、泣いているのかな」
「でも、酷いミスはしていないはずだけど」

後ろの席で泣き崩れていた本多佳子が立ちあがった。
元に向かって、歩き出した。
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