第41話保護された教会にて(1)

文字数 1,229文字

広大な敷地の中に、よく整備された庭園、そして白亜の荘厳な教会がある。
元は、その教会の隣、付属の病院の一室に運ばれた。
まるで大学病院のような精密な計器類が並び、元はベッドに寝かされている。

白衣を着た医師が、マルコ神父とシスター・アンジェラに報告をする。
大塚というネームプレートをつけている。
「ご心配の脇腹については、無事です、酷い打撲程度」
「蹴られてはおりますが、骨にも臓器にも異常は見られません」
「額の傷も治ります、後には残りません」
「口の中の裂傷も、大丈夫」

マルコ神父とシスター・アンジェラは、ホッとした顔。
マルコ神父
「これも神のご加護でしょう」
シスター・アンジェラは元の髪をなでた。
「それだけでも救いです」
しかし、すぐに顔を曇らせる。
「やさしい子で、ピアノが上手で、みんなの人気者で」
「あの元君が、どうしてこんなことに?」

マルコ神父も苦しそうな顔に変わる。
「元君が、目を覚ますまで待とう」

シスター・アンジェラ
「高輪には?」

マルコ神父は。首を横に振る。
「彼は、信用ができない」
「神よりは、地上の権威と金になびく小心者」
「だから、我々は、あの施設を出た」

シスター・アンジェラは頷く。
「ちょうど元君が彼らに引き取られた時期でした」
「元君は泣いて嫌がって」
「私たちと別れたくなかったのでしょう」

マルコ神父は決断した。
「当分は預かるとしよう」
「これも、神のご意思」

シスター・アンジェラは涙を流している。
「元君の大学に教授の知り合いがいます」
「連絡をしておきます」
「彼女にも来てもらいます」

マルコ神父の顔が、厳しくなった。
「あまりにも身勝手な、実の両親」
「引き取った養父母も、無理やりなので、元君の世話をする気は、最初からなかった」
「それを、わかっていながら、あの高輪の園長は地上の権威と金に転んだ」

シスター・アンジェラは悲し気な顔。
「私たちの後に入ったシスターが嘆いておりました」
「とにかく、ここ数年、鞭を使って折檻が酷いとか」
「止めようとしても、興奮して聞かないとか」
「毎日、その後始末に追われ」

マルコ神父は嘆く。
「地上の権威と金には弱く」
「愛するべき子供を、愚かな感情にまかせて折檻するなど」
「彼も、また神の悲しみ」
「それを気がついているかどうか」

シスター・アンジェラ
「弱い人、悩める人を癒すべきなのに」
「その逆だけを進む」

マルコ神父は元の寝顔をじっと見る。
「何のために酒を?」
「喜ぶためではないのだろう?」
「苦しみから逃れようと?」

シスター・アンジェラも元に語りかける。
「弱いとか、情けないとか」
「それで非難はしません」
「何でもいい、怒っても、泣いてもいい」
「辛いんでしょ?だから言えるだけでいいよ」
「気が向いたらでいいの」
「だから、元君」
「元気になるまで、一緒にいようね」

元の口が、少し動いた。
しかし、言葉にはならない。

シスター・アンジェラは元の手を握った。
「いいよ、寝ていなさい」
「神が貴方を癒します」
シスター・アンジェラは、そのまま泣き崩れてしまった。
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