第32話元は奈穂美を拒絶 元の評判 美人チェリスト美由紀の接近

文字数 1,078文字

思いがけず朝食を食べた元は、奈穂美をじっと見た。
「鈴木さん、今回だけにしてくれ」

奈穂美は、強い不安。
「不味かったの?」

元は無表情。
「飯は美味かった、ありがとう」
「でも、俺には分不相応」
「中村さんや杉本さん、マスターが何と言おうと」
「今回だけにして欲しい」

奈緒美は、ウキウキしていた気持ちが、完全に吹き飛んだ。
「分不相応って、意味がわからない」
「それ、説明して」
その口調がきつくなる。

しかし、元は答えない。
「大学に行く」
「鈴木さんも行くでしょ?」

奈穂美も、これは仕方がない。
一緒に玄関を出て、駅までの道を歩く。

京王線に乗っても、元は、少し離れて吊り革を握って知らんぷり。
奈穂美と目を合わせることもない。
そのまま明大前に着くと、学生の雑踏に紛れてしまい、いつの間にか、元を見失ってしまった。

それでも、西欧中世史の授業は同じ大教室。
奈穂美が大教室に入って行くと、後ろの方の席に、元も座っている。
しかし、奈穂美が元を見ても、何の反応もない。

「何よ!何様のつもり?」
奈穂美は、元の席まで行って、文句の一つでも言いたい。
しかし、それはできなかった。
奈穂美の周囲に、女子大生たちが集まって来てしまった。
その上、あれこれと話しかけて来る。

「ねえ、奈穂美、この前は大丈夫だったの?」
「トランペット男に絡まれていたよね」
「田中元君が助けてくれたんだよね」
「その後、一緒にタクシーで・・・」

奈穂美は、頷くだけ。
とても、元とのことを説明しづらい。

しかし、女子大生たちは、奈穂美を見たり、元を見たりで、質問が続く。
「ねえ、その後、どうなったの?」
「どうして一緒に座らないの?」
「気になる、教えて」

奈穂美は、ようやく、言葉を選ぶ。
「どうのこうのはないよ」
「彼には、たまたま助けてもらっただけ」
「あくまでも、彼の気まぐれ」
「だって、彼は私に、何の関心もないよ」

奈穂美の投げやりな言葉に、女子大生たちは、顔を見合わせる。
「だって、メチャかっこよかった」
「田中元君、女子たちの評判になっているよ」
「暗いけれど、いい感じって」
「明るいだけのバカ男でない」
「こう・・・何て言うのかな・・・」
「肝が据わった男って感じ」

奈穂美が、相変わらず答えられないでいると、元のほうに異変が起きた。
奈穂美と同じく交響楽団に属するチェリスト、吉沢美由紀が元の隣にスッと腰をおろした。

すると、女子大生たちが騒ぐ。
「美由紀ちゃん?」
「へえ・・・そうだったの?」
「美由紀ちゃんも美人だよね、あの二人絵になる、しっとりと、いい感じ」
「でも、いつの間に?」

ムッとする奈穂美はともかく、吉沢美由紀は笑顔で元に話しかけている。
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