第40話子供の頃の元を知っていた二人

文字数 975文字

警察官の一人が、神父服の大男に尋ねた。
「マルコ神父、この若者を本当にお知り合いで?」

マルコ神父と呼ばれた大男は、しっかりと頷く。
「はい、子供の頃から」
「と言いましょうか、子供の頃から彼を知っています」
「このシスター・アンジェラも彼と懇意、と言うよりは母親のように」

マルコ神父から、シスターのアンジェラと呼ばれた中年の女性が説明をする。
「彼は、田中元君」
「私どもが、かつて高輪の教会にいた時に」
「元君は、その教会の施設で預かっていた子供でした」
「大学入学前にも、挨拶に来ました」
「義理がたい、やさしい子で、大好きです」

警察官が手帳にメモをするのを確認して、シスター・アンジェラは続けた。
「元君を見掛けたのは、鎌倉の駅」
「声をかけようと思ったけれど」
「全く気がつかないし、夢遊病者のような感じ」
「途中のコンビニで強い酒を買って」
「また途中で、鍵のようなものをゴミ箱に」
「すぐに拾いましたら、これはおそらく家の鍵」
「その後、転んだりしながら、由比ガ浜に」

警察官はメモを取りながら、ようやく納得した様子。
「それでシスターが心配になられて、後を歩いて」
「ところが、あのロクでもないサーファー二人に、暴行され財布を取られ・・・ですね」
マルコ神父にも頭を下げる。
「神父様、録画をありがとうございます」
「重要な証拠になります」

マルコ神父は、気を失ったままの元を見て、警察官に頭を下げる。
「まずは、元君の回復がないと、事情聴取もできないと思うのです」
「それで、一旦と言いましょうか、しばらく教会の病院施設で預かります」
「教会には優秀な医師も看護師もおりますので、ご安心ください」
シスター・アンジェラも警察官に頭を下げた。
「私も、自分の息子のように可愛がっていた子です」
「その子が、あんな、死んだような顔で、フラフラと歩いて」
「何が原因で、あんな顔にと・・・その結果で、こんなことに」
「とても、他人の手には渡せません」
「これも、神のおはからい、と思うのです」

警察官も、二人の聖職者に頭を下げた。
「お二人のことは、深く信頼し、尊敬しております」
「署長にも、重々報告をしておきます」
「そこまでのお知り合いなら、お任せをいたします」


警察官の言葉を受け、マルコ神父は元を背負い由比ガ浜を出た。
そして教会からだろうか、十字架のマークが付けられた立派なワンボックスカーに乗せられた。
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