第96話演奏開始

文字数 959文字

信者たちが集まり、そして演奏開始時刻となった。
信者は山岡保と本多美智子を見て驚き、そしてプログラムノートに書かれた元の都大会優勝の経歴を見て目を見張る。
マルコ神父が300人程度の信者を前に簡単な挨拶。
「主なる神のお導きにより、素晴らしい音楽家が3人、今回の日曜礼拝にお見えになっております」
「私の説教より。余程神の御心をお伝えいたします」
「それでは、待たせるのも酷なこと、早速」
実際、シスター・アンジェラも春麗も呆れるほどの簡単な短い挨拶の後。元と本多美智子の演奏が始まった。
二人のデュオは、その出だしから、聴衆の心を魅了した。
信者たちは胸の前で手を組み、うっとりと神に祈る人がほとんど。
祖母の本田佳子は顔をハンカチで押さえ、涙をこらえきれない。
山岡保も目を閉じ、じっと聴き入ることしかできない。
マスター、探偵中村、雑誌社の杉本は、ただただ陶然と聴き入る。
美由紀と奈穂美は、結局聞く専門でいかにもレベルの違いを自覚する。

元と本多美智子の「ベートーヴェンのロマンス第2番ピアノ伴奏版」が終わった。
圧倒的な拍手の中、本多美智子は元を泣きながら抱き締める。
「ありがとうね、元君、本当にうれしくて・・・」
涙声で「私の元・・・」と言うけれど、元は意味不明との顔。
ただ「ありがとうございました、何とか・・・お邪魔にならずに?」と言葉を返す。
本多美智子は、そこでまた感極まった。
再び、元を思いっきり抱く。
少しそんな状態が続き、本多美智子は元を離した。
「春麗が待っていますね、今度もしっかり」
ただ、そう言いながらも。元と再び握手、客席に戻り山岡保の隣の席に。

元と春麗の「カッチーニのアヴェマリア」が始まった。
元の重めの前奏に続き、春麗の伸びやかな声が響き渡る。
山岡保
「元は春麗のブレスを心配して、微妙にテンポを変えている」
「本物のプロと組ませたいな」
本多美智子
「普通の人ではわからない、デリケートなテクニック」
「ただ春麗は元のレベルに追いついていない」
「仕方ない、保さんの意見が妥当」
山岡と本多美智子の意見はともかく、元と春麗の演奏も信者に圧倒的な拍手を受けた。

さて、ジャズの前の最終曲はアヴェ・ヴェルム・コルプス。
春麗とお客様気分だった美由紀と奈穂美、そして本田佳子、マルコ神父とシスター・アンジェラまで合唱に参加することになった。
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