第54話元は少し心を開く  大人たちの事後相談

文字数 1,097文字

途切れ途切れに言葉を出して、黙ってしまった元に、マルコ神父が語りかける。
「その元君の全てを知って、神は元君を私たちに委ねた」
「元君を、癒して欲しいと」
「私たちは、その神の御心を深く感じている」

シスター・アンジェラは元の髪を撫でる。
「いろいろ、辛過ぎたのかな」
「まだまだ。言いたいこともあるかな」
「でもね、まずは身体を治さないとね」
「それからでいいよ」
「私たちは、元君が何をしても、支えます」

元も、ホロッと来たようで、うっすらと涙をにじませている。

春麗は、話題を変えた。
「ねえ、元君」
「今、聴きたい曲はある?」

元は、驚いたような顔。
それでも、少し考えた。
「モーツァルトのピアノ協奏曲23番・・・第2楽章かな」

マルコ神父が春麗に目配せをすると、病室のステレオ装置を操作。
甘美な、そしてメランコリックな曲が静かに、流れ出す。


鎌倉の教会付属病院を出た一行の話題は、千歳烏山までは、奈穂美が聞いても差し障りがないもの。

マスター
「元君に連絡をするのが大変でね」
「今時、スマホを持っていないのさ」
「パソコンぐらいはあるのかな」

奈穂美は首を傾げるだけ、何も答えられない。

大学職員の三井は、元の学生名簿を見たため、明確。
「スマホは持っていません、連絡先も自宅の電話番号でした」
「履修登録はパソコンなので、おそらく持っています」

吉村教授
「元君の演奏を動画サイトで流すことになると、彼もパソコンで点検したいと思うでしょうし」

中村
「演奏の動画を元君が素直に納得するかな、それが心配」

杉本
「それもありますが、教会の病院を出てからのほうが心配」
「また、お酒と缶詰の生活は・・・」

マスター
「教会のマルコ神父もシスター・アンジェラも、考えているはず」
「気持ちが落ち着くまで、鎌倉で暮らすのかな」
「相談してみないとわからないけれど」

奈穂美は、なかなか口を挟めない。
今の元の状態では、春麗や教会に任せるしかない。
それに元が回復しても、元に寄り添って喜ばれる自信が、何もない。
結局、明大前で大人たちの一行と別れ、千歳烏山の自宅に帰った。


さて、奈穂美と別れた一行は、そのまま吉祥寺のマスターのクラブに直行。
今後の話し合いになる。

杉本
「私は、何度かお見舞いをしてみます」
「動画サイトでの演奏に、私の会社も協力したいので」
「撮影機材とか、音楽雑誌社ですので、楽譜もあります」

中村
「俺は、名古屋の本多家と田中家の関係」
「実父の山岡氏も、探ってみます」
「その前に、警察の事情聴取の手助けがあるかな」

吉村教授
「学長にも、それとなく事情を伝えておきます」
「私も音楽好きで、元君の演奏を聴きたいので」

大学職員の三井も、同感のようで、深く頷いている。
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