第48話教会病院別室にて(2)

文字数 1,340文字

吉村教授からは元の学生としての評価を含む。
「英語を受け持っておりますが、実に優秀です」
「和訳も上手です、原文を深く読みこんでいます」
「やや、ぶっきら棒な面はありますが、浮ついた感じがなくて」
「今風の軽い学生ではありません、実はしっかりとした子です」

大学職員の三井も元の評価は高い。
「各講義も欠席していません」
「普通はサボリがあるのですが」
三井は、鈴木奈緒美をストーカー男から守った時の話も加えた。

マルコ神父は、深く頷く。
「施設の頃から、そういう男気があった」
「だから女の子に慕われていた」

シスター・アンジェラは、含み笑い。
「元君は人気者で、女の子たちに囲まれることがあるの」
「でも、扱いが下手で、どうしたらいいの?って私に聞きに来て」
「やさしくね、って教えると、困ったような顔になって」
「それが、また可愛いの」

黙って聞いていたマスターが自己紹介。
「吉祥寺のクラブでマスターをしております北村と申します」
「元君にはクラブでピアノを時々弾いてもらっております」
「いつも素晴らしい演奏で、ジャズからクラシックまで、ランダムですが」
「彼が弾き始めると、お客は静まり返って、聴くばかり」

マルコ神父はうれしそうな顔。
「これも神のお恵み」
「神は、元君に音楽の力を与えてくれた」

シスター・アンジェラはマスターに質問。
「どのようなきっかけでマスターのお店に?」

マスターは答えにためらったけれど、正直に話す。
「元君に何があったのか、吉祥寺近くの公園で酔いつぶれていて」
「その元君を、私の店の常連が連れて来てからです」
「常連は、元君のストリート演奏を聴いたことがあるらしくて」
「こんな公園で酔いつぶれる音楽家ではないって、無理やりに」
ただ、その「常連」が「風俗の女性」とは、さすがに聖職者の前では言い辛い。

シスター・アンジェラは、胸の前で手を組み、祈るように目を閉じた。
「私は、その常連の方に感謝します」
「人を救う、その行為は、聖なる気持ちの表れ、神の行為なのですから」

マスターの次に音楽雑誌社の杉本。
「音楽雑誌社の杉本です」
「子供の頃から元君を取材して来ました」
「高輪の施設にも、千歳烏山の家にも」
「例のコンサートの時に取材を」
そこまで話して、「例のコンサートの時の話」を知らない人たちに、端的に説明。

やはり、聴いた人は、皆、表情が変わる。
マルコ神父の顔が赤くなった。
「それは・・・元君には辛過ぎる話だ」
「大人の勝手で、我がままで、懸命の努力を汚されて」

シスター・アンジェラは、また涙顔。
「神はどこまで試練を元君に?」
「そんなことを一言も元君は言わなかった」
「賞状もトロフィーも、大人の我がままに嫌気がさして、自主返納とは」

吉村教授は顔をしかめた。
「そんな素晴らしい才能を持ちながら、音楽の道には進まず」
「あるいは、前途を閉ざされ・・・」
大学職員の三井は、驚いたまま、声も出せない。

探偵の中村が最後に自己紹介。
「元警視庁で、弁護士資格を持ち、今は探偵業務を行っています」
「元君の演奏が好きでクラブに通っておりました」
「そして、マスターから、元君の過去、悩みにつながる過去を調べて欲しいと」
「それで、いろいろと調べたのですが・・・」
中村は、そこで杉本に目配せ。
杉本は、鞄からタブレットを取り出している。
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