第25話孤児院の人身売買疑惑

文字数 1,153文字

結局、ベッドで眠ってしまった元をそのままに、探偵の中村と雑誌社の杉本は、テーブルや冷蔵庫を見る。

中村
「酒瓶と、缶詰だけか」
杉本
「冷蔵庫は空です」
「自炊の形跡はなく、食生活はお世辞にも、まともとは言えない」
中村
「今後も心配になるな」
杉本
「そうは言っても、ここに家政婦を入れることも難しいですね」

実際、酒瓶と缶詰しかないので、元の生活状態の観察は、すぐに終わった。
元が起きるまでは、との話になったので、杉本は知っている限りの「元の情報」を伝える。
すなわち、元が孤児であったこと、赤ちゃんポストに置かれていたこと、音楽家夫妻に引き取られたこと、掃除と洗濯だけは仕込まれ、食生活は引き取られた時からコンビニ中心であること等。

中村は、ため息をついた。
「要するに、引き取るだけ引き取って、後はほったらかしか」
杉本
「それでも、進学時期には、顔を見せて手続きはしたそうです」

中村は手帳を取り出した。
「孤児院、捨て子ねえ・・・」
「ところで、どこの孤児院?」

杉本は、何故、孤児院まで聞かれるのかわからない。
それでも、「高輪の教会、そこで取材記事も書きました」と答える。

すると、中村の表情が変わった。
「あそこか・・・現役の時に・・・」
「直接の担当ではなかったけれど、噂があってね」

杉本も、それは初耳らしく、表情を引き締める。
「あの・・・どんな噂でしょうか?」
「私は、てっきり健全なミッション系の孤児院かと」

中村は声を低くした。
「確証はないから、捜査が進まなかった」
「要するに、孤児売買さ」
「子を捨てる親が孤児院から現金を受け取る、つまり売る」
「その子を買う養父母が、それ以上の金を孤児院に支払う」
「孤児院は、仕入れとの差額を秘密保持の手数料とする」
「中には、無料の赤ちゃんポストもあるかもしれない」
「ただ、その当時の担当者によると、8割は売買らしいとか」
「相場は、最低差額が100万からかな」
「ほぼ、人身売買さ」
「現金商売で、秘密で、税務申告も無し」
「人権問題にもなる」
「中には、大金持ちの男が、妾に産ませた子とか、とにかく表沙汰にはできない子」
「まあ、調べてみないと、わからないが」

杉本は、中村の長い話に驚くばかり。
「表沙汰になれば・・・」

中村
「報道されれば、大きな問題になるな、それは当然」
「ただ、あちこちの孤児院で、わからないように、同じことをやっているかもしれない」
「その中でも、高輪は、政財界とか芸能界とか、大物クラスの隠し子か、あるいは捨て子が多いらしい」

杉本は、子供の頃の、元の泣き顔を思い出した。
「可哀想に・・・犬や猫の子みたいに、売られて買われて」
「そのあげくに、ほったらかしで」
「元君は、肌で知る愛情なんて、何もなかった」
「それで育って来てしまった」
「その後も・・・可哀想過ぎるよ」
杉本も泣き顔になっている。
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