第98話山岡保の報告 そして元は山岡保の弟子入りに承諾

文字数 740文字

「その報告のまず一つ」
山岡保は、一段と声を張り上げた。
「この山岡保と本多美智子は結婚の誓いを立てました」
「え?」と二人を見る元ではあるけれど、おかまいなしに聴衆から驚きの声、祝福の言葉と拍手が鳴り響く。
「それから」
山岡保は続けた。
元の手を強く握り
「突然ではありますが、元君を我が弟子として、引き取り迎え入れたいと」

聴衆からどよめきや拍手が大きいけれど、元はやはり、意味不明。
「山岡先生・・・いくらなんでも・・・・急で・・・・いきなり・・・」
その元に山岡が小声。
「事情は後でゆっくり・・・」
不思議なことに、本多美智子は元の手をさらに強く握る。

マルコ神父がステージ中央に出て来た。
いつもの穏やかな表情で聴衆に語り掛ける。
「元君の将来のために、私も賛成します」
「もっともっと世界の人々、悩み苦しみ、神の癒しを求める人のため、元君を鍛えていただき、羽ばたかせたい」
「急な話のようで、ここに山岡保さん、本多美智子さん、そして元君が集ったのも、神のご配慮とも感じるのです」
そしてマルコ神父が元を見た。
「どうかな、元君」

少しうつむいた元であるけれど、自分でも不思議なくらいに、迷わなかった。
「わかりました、山岡先生のご指導を仰ごうかと」
そのまま山岡保に頭を下げ、自分から握手を求めた。
再び本多美智子は涙、聴衆から温かい拍手を受ける中、元は養父母の田中夫妻と千歳烏山の家を思った。
「あの養父母は、どうせ俺には興味も愛情もない」
「千歳烏山の家とて、戻れば深沢のヒステリー押し掛けが続くだけ」
「まあ、いいか、捨て猫がまた、別の家に拾われただけ」

その元は聴衆の中にマスターを見掛けた。
何故か、ホロッと来た。

山岡保がまた小さな声
「ジャズは内輪で・・・マスターも参加するよ」
元の顔に、ようやく笑みが戻った。
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