第65話不安とマルコ神父の対応 

文字数 1,436文字

あまりにも不安に感じたので、シスター・アンジェラはマルコ神父を再び教会に呼び戻した。
「マルコ神父、申し訳ありません、教会の事務で、お忙しいのに」
マルコ神父が頷くと、シスター・アンジェラと、杉本が様々な不安を説明する。


マルコ神父は腕組みをして考えた。
「そのような・・・危険がある・・・となると・・・」
「まずは事情がわかっている、探偵の中村さんに話を通じておくことは当然として」
「あるいは、凄腕の彼のことだから、既に情報は集めているかもしれない」

そこまで言って、マルコ神父はシスター・アンジェラの顔を見た。
「博多の教会に連絡をします」
「それとなく、菊池家を監視をしてもらいます」

シスター・アンジェラが頷くと、言葉を足した。
「それと田中夫妻については、パリの教会を通じて、同じように」
「浮気行為があれば、相手を含めて処置します」
「これでキリストの教会と欧米の音楽界は日本とは比較にならないほどに縁が深いので、失脚させることも簡単です」
「元君を、そして、キリストの教会を悪の手に渡すことはできないので」

杉本がマルコ神父に質問をする。
「仮に、田中夫妻が、ほとんど妻の晃子と思われますが、日本に戻って来て元君に危害を加えるような・・・」

マルコ神父は、厳しい顔になった。
「元君を千歳烏山に戻すにも、万全の注意が必要ですね」
「それを含めて、中村さんとも相談です」
「あるいは名古屋の本多家のおばあ様も含めて」

シスター・アンジェラは、教会の壁際に立つ聖母マリア像を見た。
「本当は、実の息子の危機」
「山岡さんと、本多さんに知らせたいけれど」
「でも、彼らが万が一戻って来ても、元君が、素直に話を聞くとは、どうしても思えない」

マルコ神父が、話をまとめた。
「今、話したようなことを、私から中村さんと、クラブのマスター、吉村教授、大学職員の三井さんにも連絡をしておきます」
「それから、慎重を期して、元君の最初の日曜日集会の演奏は、信者と関係者のみの非公開にします」

シスター・アンジェラと杉本は異論がなく、その日の話は、そこで終わった。


その翌朝、元は、不安そうな顔で、マルコ神父の執務室に出向いた。
「あの・・・そろそろ身体が動くので、千歳烏山に帰りたい」
「それと、お世話してもらって、治療してもらって、支払いもあるかなと」

マルコ神父は、やわらかな、少し考えるような顔。
「まだ、しっかり言っていなかったけれど」
「元君は、犯罪被害者です」
「だから、治療費は、犯人が払うのが当たり前」
「それに、慰謝料を添えて」
「それについては、中村さんが、対応しました」
「元君が心配することは、何一つありません」
「何でも、一人は、裕福な家のお坊ちゃんみたいで、支払いは問題ないとか」
「既に、治療費は所定の料金を振り込んでもらっています」
「後は、慰謝料の交渉で、これは元君の意思もあるので、今後になります」

スラスラと説明をされて、元は安心した顔。
「じゃあ、日曜の集会が明後日ですが、千歳烏山に戻っても?」

マルコ神父は、元を手で制した。
「私たちは、もう少し、この教会にいて欲しい」
「病室からは出てもらうけれど、部屋を準備します」
「千歳烏山から必要な物を持って来ることも、対応します」
「確かに大学は遠くなるけれど」

元は、理由がわからない。
「いや・・・そこまでは」
「そもそも・・・身体が治ったのに、あまり、お邪魔し続けるのも」

マルコ神父は、笑顔。
しかし、首を横に振る。

元は、この表情になった時のマルコ神父の「頑固さ」を思い出している。
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