第55話美由紀VS奈穂美

文字数 1,254文字

奈穂美は、地区の主婦コーラスや深沢ピアノ講師の件は、実はどうでもよかった。
迷惑に感じこそすれ、もともと何があっても、弾く気はなかったのだから。
それよりも、鎌倉の教会病院から帰った2日後の、吉沢美由紀との会話で、落胆したり、混乱をしていた。

話しかけて来たのは、美由紀だった。
「奈穂美さん、鎌倉の教会の病院に行ってきたの?」
奈穂美は驚いた。
「美由紀さん、それ、何で知っているの?」

美由紀
「クラブのマスターから聞いた」
奈穂美
「例のブラバンのストーカー男から助けてもらったお礼もあるから」
「私は、たまたまキャンパスで吉村教授から聞いて」

美由紀は、奈穂美をジロジロと見る。
「奈穂美さん、お見舞いはいいけどさ」
「元君の役に立てたの?」
「お話が出来たの?」
奈穂美は、ムッとする。
「どういう意味?」
「元君は、痛くて話が出来ない状態だった」
「美由紀さん、すごく言葉にトゲがあるよ」

美由紀は、「はぁ・・・」とため息。
「元君ね、自分が価値を認めない人と、あまり話をしないの」
「だからさ、はっきり言うよ、奈穂美さんでは無理」
奈穂美は、ますます気に入らない。
「私で無理って、意味わからない」
「具体的に言って!」

美由紀は、呆れたような顔。
「奈穂美さんね、あなた元君を理解していない、それも全く!」
「元君が好きなことは何?」
「何に価値を感じるの?」
奈穂美は、「え?」と、答えられない。

その奈穂美に、美由紀は、ますます呆れ、小馬鹿にしたような顔。
「元君は、音楽の人、いや音楽しか興味が無いの」
奈穂美は、「あ・・・うん・・・」と、答えるだけ。

美由紀
「私は、それでも何回か元君とデュオしたよ」
「それでも、元君はイラついていたけど」
奈穂美は、驚いた。
「美由紀さん、メチャ上手なのに?」

美由紀
「だから、元君はレベルが違うの」
「テクニック、ニュアンス、メロディーの歌わせ方、客の乗せ方」
「私なんて、元君から見れば、プロと幼稚園だもの」
奈穂美は下を向く。
「私なんて・・・ゴミみたいなものか」
「楽譜を正確に、が精一杯、それも出来ていないし」

美由紀
「残念だけど、今の実力での奈穂美さんは、そう思うよ」

奈穂美は、顔を上げた。
「美由紀さんって、マジに元君の彼女なの?」
美由紀は、少しためらう。
「まだ、そこまで行っていない」
「好きだけど、元君、難しいから」

奈穂美も、それには同感。
「気難しいよね、顔が怖い時がある」
そこまで言って、突然、春麗の顔が浮かんだ。
「でもね、看護師で春麗さんって、すごい美少女がお世話していて」
「元君の顔が、すごく自然なの」

美由紀の表情が、変わった。
「それ・・・マジ?」
「あの元君が?」
「見に行くかな、その美少女」

奈穂美は見たままを話す。
「マジに可愛いし、スタイルは完敗・・・私が見とれるほど」
「バスト、ウェスト、ヒップ、おまけに美脚」
「何より元君と、いい感じ」

美由紀
「中国系かな?」
奈穂美
「うーん・・・そこまでは聞いていない」
美由紀
「一緒に行く?」

奈穂美は、意外な申し出に混乱した。
しかし、断る理由がない。
「うん、行く」と承諾している。
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