第61話元はリハビリでオルガンを弾き始めた

文字数 859文字

横浜で財布をプレゼントされ、海鮮中華を食べた2日後ぐらいから、リハビリのため、元は教会でオルガンを弾くようになった。


元が弾き出すと、聴く人の口が閉じる。
何の曲を弾いても、一音も聞き逃したくない。
弾き終えて、オルガンから離れた時に、ようやく口を開く。

マルコ神父は、戻って来た元に笑顔。
「ここまで弾けるようになるとは」
「実にありがたい」

シスター・アンジェラは、目に涙を浮かべている。
「天使が弾いているようでしたよ、ありがとう」

春麗は、胸を押さえて、声が出せない。
とにかく感激しているようだ。

音楽雑誌社の杉本も、驚くばかり。
「超一流を越えている、至高のオルガンです」

元は表情を変えない。
「まだ、時々腕が動かない時があって」
「いや、動くけど、重いのかな」
「だからリズムとテンポが、ずれる」
と、実は納得していないらしい。


そんなオルガンのリハビリ練習を終えて、マルコ神父が元に相談をかけた。
「元君、弾きたい時でいいけれど、信者の集いで弾いて欲しい」
「強制はしないよ」
「私たちだけで聴くのが、申し訳ないので」

シスター・アンジェラと、春麗も同じ思いなので、元を見つめる。

元は、やはり難しい顔。
「いつも弾きたい時に弾いていただけで」
「お願いされて弾いたことはないけど」
しかし、その言葉に迷いがある。
「命を救ってもらって、面倒を見てもらった」
「お返しをしないと、気持ちが」

春麗は、話題を変えた。
「ねえ、元君」
「アヴェマリアって、いろいろあるよね」

元は、目を丸くする。
「うん、モーツァルト、シューベルト、バッハとグノー、カッチーニ」
「どれも好きだよ」

春麗は笑顔。
「一回、合わせてみたいなあと」

元は、また目が丸い。
「春麗と?」
「歌えるの?」

春麗はまた笑う。
「歌ってみて、ダメだったら、やめればいいだけ」
「つまり、元君と勝負かな」

元は苦笑い。
「乗せようと、弾かせようとしていない?」

春麗は、元の手を取った。
「ゴチャゴチャ言わない、男の子でしょ?」

元も、そこまで言われては、抵抗しなかった。
「グノーでいい?」

春麗と一緒に、再びオルガンに向かった。
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