第75話 連絡
文字数 1,133文字
伸が、がっくりとうなだれて言った。
「もう死にたい」
「……え?」
伸は、ゆるゆると首を左右に振って、額に片手を当てた。
「伸くん、どうしたの?」
急に死にたいだなんて。伸は、うつむいたまま、額に当てていた手をだらんと落として言う。
「自分の馬鹿さ加減にうんざりする」
訳がわからないながら、有希は言った。
「伸くんは、馬鹿じゃないよ」
「いや。馬鹿だ」
伸が、悲しそうな目でこちらを見る。
「なんとか、うまく別れようとしたのに、もう二人きりになるのはよそうと思ったのに、君を説得することも出来ず、結局、こうしてまた、二人で部屋にいる」
有希は、伸の目を見つめ返す。
「伸くんが、そういうふうに思っていることは、なんとなくわかっていたよ。本当は、僕のことを大切に思ってくれていることも。
僕は、伸くんと一緒にいたいと思っているけど、伸くんが、どうしても別れなくちゃいけないって言うなら、悲しいけど、言う通りにするよ。
だけど、その前に、ちゃんと理由を説明してくれなくちゃ嫌だ。だって僕は、伸くんのことが好きなんだから!」
言いながら、また涙が込み上げて来た。本当は、別れたくなんかない!
「あぁ……」
伸が、辛そうな表情で声を漏らし、その目に、うっすらと涙が滲んだ。有希は、胸をわしづかみにされたような気持ちになる。
「伸くん」
「どうしたらいいかわからないよ。だけど……」
伸は、ぶんぶんと頭を振る。乱れた前髪が潤んだ目元にかかって、こんなときなのに、有希は、その姿を、とてもセクシーだと思う。
その前髪をかき上げて、伸が言った。
「少し時間をくれないか」
「……わかった」
伸は、心が決まったときには必ず連絡するから、それまで待っていてほしいと言い、タクシーを呼んでくれた。伸が、とても悩んでいるということは、よくわかったので、有希は、いつまででも待とうと思った。
その場しのぎのことを言って、強引に追い返そうとしたりしない伸は、とても誠実だと思う。それはやっぱり、有希のことを真剣に考えてくれているからに違いない。
たとえ記憶がなくても、以前の自分は、そういう伸のことが、本当に好きだったのだとわかる。だからこそ、今もこんなに好きなのだ。
連絡は、意外に早く来た。それは、週末の午後だった。
「明日、フォレストランドの噴水の前まで来てもらいたいんだけど、いいかな」
伸の声は、とても静かだ。
「いいけど、明日は仕事があるでしょう? 日曜日なのにいいの?」
休日のフォレストランドは、きっといつもより賑わうはずだ。
「あぁ。無理を言って有休を取った。いつもあんな場所で悪いけど、他に思いつかなくてね」
きっと、有希の休みに合わせてくれたのだ。
「僕は、かまわないよ。時間は?」
「昼過ぎに」
「もう死にたい」
「……え?」
伸は、ゆるゆると首を左右に振って、額に片手を当てた。
「伸くん、どうしたの?」
急に死にたいだなんて。伸は、うつむいたまま、額に当てていた手をだらんと落として言う。
「自分の馬鹿さ加減にうんざりする」
訳がわからないながら、有希は言った。
「伸くんは、馬鹿じゃないよ」
「いや。馬鹿だ」
伸が、悲しそうな目でこちらを見る。
「なんとか、うまく別れようとしたのに、もう二人きりになるのはよそうと思ったのに、君を説得することも出来ず、結局、こうしてまた、二人で部屋にいる」
有希は、伸の目を見つめ返す。
「伸くんが、そういうふうに思っていることは、なんとなくわかっていたよ。本当は、僕のことを大切に思ってくれていることも。
僕は、伸くんと一緒にいたいと思っているけど、伸くんが、どうしても別れなくちゃいけないって言うなら、悲しいけど、言う通りにするよ。
だけど、その前に、ちゃんと理由を説明してくれなくちゃ嫌だ。だって僕は、伸くんのことが好きなんだから!」
言いながら、また涙が込み上げて来た。本当は、別れたくなんかない!
「あぁ……」
伸が、辛そうな表情で声を漏らし、その目に、うっすらと涙が滲んだ。有希は、胸をわしづかみにされたような気持ちになる。
「伸くん」
「どうしたらいいかわからないよ。だけど……」
伸は、ぶんぶんと頭を振る。乱れた前髪が潤んだ目元にかかって、こんなときなのに、有希は、その姿を、とてもセクシーだと思う。
その前髪をかき上げて、伸が言った。
「少し時間をくれないか」
「……わかった」
伸は、心が決まったときには必ず連絡するから、それまで待っていてほしいと言い、タクシーを呼んでくれた。伸が、とても悩んでいるということは、よくわかったので、有希は、いつまででも待とうと思った。
その場しのぎのことを言って、強引に追い返そうとしたりしない伸は、とても誠実だと思う。それはやっぱり、有希のことを真剣に考えてくれているからに違いない。
たとえ記憶がなくても、以前の自分は、そういう伸のことが、本当に好きだったのだとわかる。だからこそ、今もこんなに好きなのだ。
連絡は、意外に早く来た。それは、週末の午後だった。
「明日、フォレストランドの噴水の前まで来てもらいたいんだけど、いいかな」
伸の声は、とても静かだ。
「いいけど、明日は仕事があるでしょう? 日曜日なのにいいの?」
休日のフォレストランドは、きっといつもより賑わうはずだ。
「あぁ。無理を言って有休を取った。いつもあんな場所で悪いけど、他に思いつかなくてね」
きっと、有希の休みに合わせてくれたのだ。
「僕は、かまわないよ。時間は?」
「昼過ぎに」