第66話 噴水の前
文字数 763文字
「主任にお客様ですよ。この前の高校生です」
沙也加にそう言われたときは、ぎょっとした。スマートフォンに何度も着信があったことはわかっていたが、ここまでやって来るとは思っていなかったのだ。
中本が、半笑いで言う。
「またかよ。あの子、もしかして主任のストーカーとか」
「まさか」
アイスコーヒーを作りながら、沙也加が言う。
「でも、かわいい子ですよね」
「かわいくたって男だぜ」
伸は、中本の言葉を遮るように、沙也加に向かって言った。
「それ、俺が持って行くよ」
話をしてすぐに、有希が、行彦の記憶を失っていることはわかった。冷たくあしらって、早々に追い返そうと思ったのだが、彼は、思いのほか手ごわかった。
伸との間に起こったことは、何一つ覚えていないはずなのに、どうしても話がしたいと言って聞かないのだ。
仕方がないので、閉店後に、パーク内の噴水の前で話すことにしたのだった。
有希が、自分に興味を持っているらしいことはわかった。男同士だということに、嫌悪感を持っているわけではないらしいことも。
正直なところ、彼が行彦としての記憶をなくしてもなお、伸は、彼のことを愛しいと思うし、激しく体を求め合った夜が忘れられない。
だが、彼の中に行彦がいない以上、このまま関係を続けるわけにはいかない。もしも彼が行彦の生まれ変わりでなかったならば、おそらく二人は、一生交わることもなかっただろう。
若い彼の人生を狂わせることなど出来ない。自分が愛したのは行彦だったのだから、これからも、その思い出を胸に抱いて生きて行けばいいのだ。
「とにかく俺は、もう君とは付き合えない」
二度と会わない。その思いを込めて告げ、その場を後にしたのだった。
二度と会いたくない。いや、会えない。あまりにも辛過ぎるから。どうかもう、俺の前に現れないでほしい……。
沙也加にそう言われたときは、ぎょっとした。スマートフォンに何度も着信があったことはわかっていたが、ここまでやって来るとは思っていなかったのだ。
中本が、半笑いで言う。
「またかよ。あの子、もしかして主任のストーカーとか」
「まさか」
アイスコーヒーを作りながら、沙也加が言う。
「でも、かわいい子ですよね」
「かわいくたって男だぜ」
伸は、中本の言葉を遮るように、沙也加に向かって言った。
「それ、俺が持って行くよ」
話をしてすぐに、有希が、行彦の記憶を失っていることはわかった。冷たくあしらって、早々に追い返そうと思ったのだが、彼は、思いのほか手ごわかった。
伸との間に起こったことは、何一つ覚えていないはずなのに、どうしても話がしたいと言って聞かないのだ。
仕方がないので、閉店後に、パーク内の噴水の前で話すことにしたのだった。
有希が、自分に興味を持っているらしいことはわかった。男同士だということに、嫌悪感を持っているわけではないらしいことも。
正直なところ、彼が行彦としての記憶をなくしてもなお、伸は、彼のことを愛しいと思うし、激しく体を求め合った夜が忘れられない。
だが、彼の中に行彦がいない以上、このまま関係を続けるわけにはいかない。もしも彼が行彦の生まれ変わりでなかったならば、おそらく二人は、一生交わることもなかっただろう。
若い彼の人生を狂わせることなど出来ない。自分が愛したのは行彦だったのだから、これからも、その思い出を胸に抱いて生きて行けばいいのだ。
「とにかく俺は、もう君とは付き合えない」
二度と会わない。その思いを込めて告げ、その場を後にしたのだった。
二度と会いたくない。いや、会えない。あまりにも辛過ぎるから。どうかもう、俺の前に現れないでほしい……。