第24話 息子

文字数 1,011文字

 結論から言うと、響子は、行彦を引き取った。正式に養子として迎え入れたのだ。
 芙紗子は大反対したが、響子は、それならば家政婦を辞めてもらってかまわないと言った。芙紗子が辞めても、新たに別の人を雇うまでだと。
 失礼な言い草なのはわかっているが、決意の固さをわかってほしかったのだ。芙紗子は、折れた。
 
「一生、響子さんのおそばにいて、お世話するという、亡きご両親との約束を違えるわけにはまいりません。ですから、これまで通り、響子さんと行彦ちゃんのお世話をさせていただきます。
 ですが、私が本当は、行彦ちゃんを養子になさることに反対であること、本当は、響子さんに幸せな結婚をして、ご自身のお子様をもうけていただきたいと思っていることを、どうぞお忘れにならないでください」
 
 
 もちろん、ここまでして行彦を引き取ったのには理由がある。
 それは今回も、響子のほうから連絡をしてわかったことなのだが、志保は、パート先の上司と恋仲になっていた。響子が知らなかっただけで、多分、彼女は、とても惚れっぽい質なのだ。
 彼は、志保の過去を知った上で、結婚を望んでいるという。だが、さすがに彼の両親は、行彦を育てることには難色を示しているらしい。
 行彦のことはともかく、志保の頭の中から、照彦の存在は、もはや、すっかり消えているようだった。
 
 それを知ったとき、響子はうれしかった。これで照彦は、ようやく自分だけのものになったのだ。そして、行彦も。
 自分の考えが、世間的には普通でないことは承知している。だが、今も照彦のことを思わない日はないし、行彦のことも、我が子のように愛している。
 誰に迷惑をかけるわけでもない。いや、いつも自分を大切にしてくれている芙紗子には迷惑をかけてしまうが、それでも、今、自分が一番欲しいのは、行彦だ。
 自分の欲しいものが、すぐ目の前に差し出されているというのに、それを手に入れていけないはずがない。
 
 行彦のことは、自分の子供として育てたい。それで、今後、志保は行彦には会わないという条件のもとに、正式に養子縁組をした。
 行彦は、とても聡明な子だった。初めは、照彦の子供である行彦を手元に置きたいと思ったのだったが、いつしか照彦のことは忘れ、自分の息子として、ただ行彦を愛するようになった。
 行彦さえいれば、それでいい。一生、行彦の母親として、彼のそばで生きて行くのだ。
 行彦は、自分に対する天からの贈り物だ……。
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