第34話 再会

文字数 507文字

 洋館の門の前には「立ち入り禁止」の看板が立てられ、ロープが張り巡らされていたが、いつもの塀の破損した部分から、難なく敷地内に入ることが出来た。
 三階の角部屋を見上げると、窓から灯りが漏れているのが見える。あぁ、やっぱり。
 立花さんは、おかしなことを言っていたが、やっぱり、行彦はあそこにいるじゃないか。あの人のほうこそ、おかしいのではないか。
 行彦が中にいるのに、工事が始まったら大変だ。早く行彦に知らせなくては。 
 なんなら、うちに連れて行ってもいい。事情を話せば、お母さんだって反対しないだろう。
 伸は、取り出した懐中電灯を点け、建物の中に入る。もう何度となく三階まで上っているので、迷いはない。
 
 階段を上るのが大変で、息が切れ、途中で何度か休まなくてはならなかったが、ようやく懐かしいドアの前にたどり着いた。伸は、いつものように、二度ノックする。静かにドアが開く。
 会えない間、何度となく頭に思い描いた美しい顔、華奢な体、甘くかぐわしい香り。今、愛しい行彦が目の前にいる。
「伸くん」
 言いながら、行彦の顔が歪み、滑らかな頬に、大粒の涙があふれては落ちる。伸は胸がいっぱいになって、両腕で行彦を抱きしめた。
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