第43話 発見

文字数 1,020文字

 翌朝早くから、解体作業のため、洋館の敷地内に重機やトラックが続々と到着した。館内は、すでに点検済みだったが、最終確認のため、作業員が全階をくまなく見て回った。
 三階の廊下の突き当りにある角部屋の、埃がうずたかく積もったベッドの上で、意識を失っている少年が発見された。作業開始は、いったん延期され、少年は、作業員が要請した救急車で病院に搬送された。
 少年は、前日未明に、かねてより入院中の病院から姿を消しており、当日の早朝に、病院から捜索願が出されていた。
 
 
 
――伸くん。僕の前に現れてくれてありがとう。伸くんのおかげで、僕は、長い長い孤独から解放された。
 伸くんに出会えて幸せだった。ずっと愛しているよ。
  
 それが、本当に行彦が自分にかけてくれた言葉なのか、ただの夢なのか、伸には判断がつかない。ただ、その言葉のおかげで、病院のベッドで目覚めたとき、体がひどく疲れているにも関わらず、とても幸せな気分に包まれていた。
 母は、伸が目覚めたと気づくなり、声を上げて泣き出した。心配をかけてしまったことを申し訳なく思ったし、生きて、ここに戻って来られてよかったと思った。
 とはいえ、やっぱりまだ、行彦が幽霊だったなんて信じられないのだが。行彦の肌の感触や体の反応が、あまりにもリアル過ぎて。
 
 
 伸が、洋館の角部屋で発見されたときの様子を聞いた。正確には、母が救急隊員に聞いた話を、また聞きしたのだが。
 天井に蜘蛛の巣が張り、破れたカーテンの下がる部屋の汚れたベッドの上で、伸は、埃にまみれて倒れていたという。病院を出たときのままの服装で、床に、持って出たショルダーバックも落ちていたと。
 それを聞いて、少しだけ安心した。あのとき、行彦と何度も愛を交わしたので、全裸のまま発見されたのだとしたら、さすがに恥ずかしいと思ったから。
 
 なぜあんなところに行ったのかと聞かれたが、それについては、何も覚えていないと答え、それで押し通した。どうせ伸は、精神のバランスを崩していると思われているのだから、誰も疑うことはないだろうと思ったし、実際、深く追及されることはなかった。
 伸のせいで開始が遅れていた解体工事も、数日後には始まったという。事件性はないとされつつも、警察に届け出ていたために、一応の現場検証や、作業員への聞き取りが行われたのだという。
 誰も伸を責めたりはしなかったが、たくさんの人に迷惑をかけてしまったことを知り、申し訳なく思った。
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