第67話 狼狽

文字数 458文字

 ベッドに寝転がり、有希は、フォレストランドの噴水の前で撮った写真を見返す。噴水や風景を撮った後の、安藤伸の連写。
 うつむきがちに、こちらに向かって歩いて来るグレーのパーカーの尖った肩、風にふわりと舞い上がった前髪、こちらを見る切れ長の目、レンズから顔を背けるようにして、こちらにかざす長い腕。
 この人は、なんでこんなに寂しそうなんだろう。恋人同士だったはずなのに、僕が倒れたときだって一緒にいたのに、どうして、もう付き合えないなんて言うんだろう……。
 
 二人は、どんなふうに付き合っていたんだろう。恋人同士なんだから、キスくらいはしただろう。
 有希は、彼の顔がはっきり写っている一枚を見つめながら、唇と唇が重なるところを想像してみる。なんだかドキドキするが、嫌な感じはしない。
 キスはいいとして、それ以上のこともしていたのだろうか。付き合い始めてから日が浅いようだから、それはまだなのか。
 でも、男同士で、いったいどんなふうに……。そう考えたとたん、からだの奥のほうが変な感じに疼いて、有希は、そのことに狼狽した。
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