第82話 同化
文字数 1,330文字
伸につられたように、有希も、ふふっと笑った。
「僕も、すごく幸せ。伸くんと、ずっとずっと一緒にいたい」
「こんな、おじさんでいいのか?」
「だからぁ。伸くんは、おじさんじゃないったら。伸くんは、とってもチャーミングな、おにいさんだよ」
大人げないと思いながら、伸は続ける。
「本当に、ずっと一緒にいてくれるのか? 君が大人になる頃には、俺は本当に、しょぼくれたおじさんになっていると思うけど」
有希が、にやにやしながら言った。
「伸くんこそ、一生、僕と一緒にいたいと思っているの?」
「あ……」
それは、さすがにずうずうしいだろうか。伸はともかく、有希には、これから先、もっと好きな相手が出来るかもしれない。だが。
「俺は、そう思っている。有希のことを愛しているから。その気持ちは、きっとこの先も変わらない。
でも、俺がそう思っているだけだから、君は気にせず、好きにしていいんだ。もしもほかに……」
「もう!」
有希が、再び、伸をぎゅっと抱きしめた。
「そういうときは、『四の五の言わず、一生、俺のそばにいろ』って言うんだよ。そしたら僕が、『はい』って答えるから。
ねぇ、言ってみて」
やっぱりまた、有希のペースになっている。そう思いながらも、伸は、言われた通りにする。
「四の五の言わず、一生、俺のそばにいろ」
「……はい。一生、僕をそばに置いてください」
体中が、かっと熱くなる。何か気の利いた言葉を返したいと思うが、何も出て来ない。こんなに幸せなことが、ほかにあるだろうか。
もちろん、人の心が移ろいやすいものだということは承知している。有希も、今はこんなふうに言っていても、いつか、伸に対する気持ちが冷めるときが来るかもしれない。
だが、それでかまわない。たとえ有希が自分のもとから去るときが来たとしても、今、この瞬間の幸せな記憶があれば、それだけで生きて行ける。
今までだって、自分は、そんなふうにして生きて来たのだから。
感慨にふけっていると、腕の中で有希がつぶやいた。
「伸くん」
「……うん?」
「これからもまた、体の奥が疼いてどうしようもなくなったら、伸くんに鎮めてほしい」
「あぁ」
「そうなったときは、何度でも」
「あぁ」
有希がそうなっているときは、きっと自分の体も同じようになっていることだろう。伸の痛いほどの疼きも、有希と一つになることでしか、鎮めることが出来ない。
「あのね」
有希が、顔を上げて、伸を見つめた。頬が上気している。
「さっき鎮めてもらったばっかりなのに、また……」
伸の体も、先ほどから疼き始めている。
「わかった」
今度こそは、大人の男らしく、自分のペースで。そう思いながら、有希をあお向けにさせて組み敷く。
されるままになって、潤んだ瞳で伸を見上げる有希の、なんと美しく、なまめかしいことか。伸は、遠い記憶をたどる。初めて行彦と、こんなふうに見つめ合った日のことを。
有希は、墓地で倒れたとき、自分の中から行彦が抜け出たのだろうと言った。だが、伸は思うのだ。
あのとき、行彦は、有希の体から出て行ったのではなく、完全に同化したのではないかと。行彦と有希は、完全に一つになった。伸と愛し合うために。
伸は、愛しい恋人の名を呼ぶ。
「ユウ」(終)
「僕も、すごく幸せ。伸くんと、ずっとずっと一緒にいたい」
「こんな、おじさんでいいのか?」
「だからぁ。伸くんは、おじさんじゃないったら。伸くんは、とってもチャーミングな、おにいさんだよ」
大人げないと思いながら、伸は続ける。
「本当に、ずっと一緒にいてくれるのか? 君が大人になる頃には、俺は本当に、しょぼくれたおじさんになっていると思うけど」
有希が、にやにやしながら言った。
「伸くんこそ、一生、僕と一緒にいたいと思っているの?」
「あ……」
それは、さすがにずうずうしいだろうか。伸はともかく、有希には、これから先、もっと好きな相手が出来るかもしれない。だが。
「俺は、そう思っている。有希のことを愛しているから。その気持ちは、きっとこの先も変わらない。
でも、俺がそう思っているだけだから、君は気にせず、好きにしていいんだ。もしもほかに……」
「もう!」
有希が、再び、伸をぎゅっと抱きしめた。
「そういうときは、『四の五の言わず、一生、俺のそばにいろ』って言うんだよ。そしたら僕が、『はい』って答えるから。
ねぇ、言ってみて」
やっぱりまた、有希のペースになっている。そう思いながらも、伸は、言われた通りにする。
「四の五の言わず、一生、俺のそばにいろ」
「……はい。一生、僕をそばに置いてください」
体中が、かっと熱くなる。何か気の利いた言葉を返したいと思うが、何も出て来ない。こんなに幸せなことが、ほかにあるだろうか。
もちろん、人の心が移ろいやすいものだということは承知している。有希も、今はこんなふうに言っていても、いつか、伸に対する気持ちが冷めるときが来るかもしれない。
だが、それでかまわない。たとえ有希が自分のもとから去るときが来たとしても、今、この瞬間の幸せな記憶があれば、それだけで生きて行ける。
今までだって、自分は、そんなふうにして生きて来たのだから。
感慨にふけっていると、腕の中で有希がつぶやいた。
「伸くん」
「……うん?」
「これからもまた、体の奥が疼いてどうしようもなくなったら、伸くんに鎮めてほしい」
「あぁ」
「そうなったときは、何度でも」
「あぁ」
有希がそうなっているときは、きっと自分の体も同じようになっていることだろう。伸の痛いほどの疼きも、有希と一つになることでしか、鎮めることが出来ない。
「あのね」
有希が、顔を上げて、伸を見つめた。頬が上気している。
「さっき鎮めてもらったばっかりなのに、また……」
伸の体も、先ほどから疼き始めている。
「わかった」
今度こそは、大人の男らしく、自分のペースで。そう思いながら、有希をあお向けにさせて組み敷く。
されるままになって、潤んだ瞳で伸を見上げる有希の、なんと美しく、なまめかしいことか。伸は、遠い記憶をたどる。初めて行彦と、こんなふうに見つめ合った日のことを。
有希は、墓地で倒れたとき、自分の中から行彦が抜け出たのだろうと言った。だが、伸は思うのだ。
あのとき、行彦は、有希の体から出て行ったのではなく、完全に同化したのではないかと。行彦と有希は、完全に一つになった。伸と愛し合うために。
伸は、愛しい恋人の名を呼ぶ。
「ユウ」(終)