第47話 墓参り

文字数 1,103文字

 伸は、さっそく立花に電話をかけた。緊張しながら待っていると、彼女はツーコールで出た。
「あの、安藤伸です。その節は、いろいろご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
「あぁ、安藤くん」
 聞き覚えのある明るい声だ。
「体のほうは、大丈夫なの?」
「はい。もうすっかり」
「それはよかったわ。それで、今日はどうしたの?」
「あの、ずうずうしいんですが、ちょっとお願いがありまして……」

 桐原家の墓参りをしたいので、場所を教えてほしいと言うと、立花は、心配そうに言った。
「安藤くん、あなた……」
「いや、あの、前に立花さんに言ったことは、全部自分の勘違いだったってわかっています。あの頃は俺、いろいろ悩んでいて、精神的におかしくなっていたんです。
 でも、今はもう悩みは解消したし、立花さんに迷惑をかけるつもりもありません。ただ、お墓参りをして、自分の中で、けじめをつけたいと思って」
 強引な言い訳だと思うが、ほかになんと言えばいいのかわからない。どうしても、お墓の場所が知りたいのだ。
 
 やがて、立花は言った。
「お墓は**県にあるのよ。遠いけど、一人で大丈夫?」
 遠いと言っても、隣の県だ。
「はい。大丈夫です」
 気のいい立花は言う。
「私が一緒に行かれればいいんだけれど……」
「いえ。俺一人で大丈夫ですから」
「それじゃ、何かあったら、遠慮せずに私に言ってね」
 そう言ってから、墓地の住所と電話番号を教えてくれた。
 
 
 日曜日、母には、隣町に映画を見に行くと言って家を出た。その墓地は、見晴らしのいい高台にあった。
 なんとなく、よくある御影石か何かの墓石を想像していたのだが、桐原家の墓は、ピンクがかった色の石で出来た、洋風の洒落たものだった。あの洋館の雰囲気と合っていると思う。
 墓石には、そこに眠っている桐原家の人たちの名前が刻まれていた。確かに、桐原行彦と桐原響子の名前も並んでいる。
 行彦の没年を見て、伸は愕然とした。そこに刻まれていたのは、伸が生まれるよりも前の年月日だったのだ。
 
 あぁ。やはり行彦が言っていたことは本当だった。行彦は、廃墟となった洋館に住んでいる幽霊だったのだ。
 不慮の死を遂げ、この世に思いを残したまま、長い間その場にとどまらざるを得なかった孤独な魂。その魂は、今どこにいるのだろう。
 伸と出会い、深く愛し合い、ようやく孤独から解放された行彦は、やっと成仏することが出来たのだろうか。
 
 そうであるならば、多分それは、行彦のために喜ぶべきことなのだ。だが、伸は悲しくてたまらない。
 生きている限り、もう二度と行彦に会うことは出来ないのか。自分はこの先、どうやって生きて行けばいいのだろう……。
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