第48話 レストラン

文字数 812文字

 その後も伸は、孤独な毎日を送った。
 宣言通り、松園たちが嫌がらせをすることはなくなったが、だからといって、二人の間に友情が芽生えたというわけではない。伸も、おそらく松園も、そこまで能天気ではないのだ。
 ほかの新しい友達を作りたいとも思わなかった。一人には慣れているし、胸の中には、いつも行彦がいて、誰かと他愛無い話をするよりも、彼のことを考え、彼との思い出に浸っていたかった。
 
 伸は、高校を卒業すると、大学には進まず、調理師専門学校に入学した。いずれは、母の跡を継ぎたいという気持ちからだが、正直なところ、ほかにやりたいことが見つからなかったのだ。
 専門学校を卒業した後は、どこかの店に就職して修行するつもりでいた。ちょうど卒業する年に、かねてから建設中だったテーマパーク「フォレストランド」が完成し、その敷地内にあるレストランで、オープニングスタッフとして働くことになった。
 
 テーマパークは、自然の地形を利用したフィールドアスレチック、以前からあったものを拡張し、植物の展示とともに販売もする植物園、人々の憩いの場となる公園、土産物店などから成っている。
 その中にあるレストランは、ちょうど洋館が立っていた場所に建設された。それを知ったとき、ただの偶然ではないものを感じ、伸は、是非そこで働きたいと思ったのだった。
 いや、多分それは、ただの偶然なのだ。それでも、その場所で、行彦を身近に感じながら働くことが出来れば本望だと思ったのだった。
 
 
 月日は流れた。伸は、三十代半ばになった。
 相変わらず、友達も恋人も作らないまま、テーマパーク内のレストランで働き続け、いつしか、スタッフの中では最年長となり、主任と呼ばれるようになっていた。
 パーク内で遊び疲れた人たちが、一休みしたり食事をしたりするレストランなので、それほど本格的なメニューはないが、伸はいつも、心を込めて料理を作っていた。それが、母からの教えでもある。
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