第54話 深夜特急 沢木耕太郎

文字数 2,050文字

※フェリーの動きとともに変化していく風景に、優しい視線を投げかけている姿をよく見かけた。
◇美しい表現。
※人が狭い空間に密集し、叫び、笑い、泣き、食べ、飲みそこで生じた熱が湯気を立てて天空に立ち上っていくかのような喧噪の中にある香港で、この海上フェリーだけは不思議な静びつさがある。それは宗教的にも政治的にも絶対の聖域を持たない香港の人々にとって、ほとんど唯一の聖なる場所ではないかと思えるほどだった。
◇喧噪の具体的表現、そして静かさ。聖域すばらしい美しき表現。
※ワラワラに初めて乗った時、咳一つせず、黙りこくり、眼だけはひからせながら互いをぶしつけに観察し合っている。そのさまはかなり異様なものだった。九龍側の桟橋に着くまでの三十分、私は知らぬ間に息をつめ、体を固くしていた。
◇これエッセイでなく小説の表現かと思う。状況を実に如実に表現している。
※一瞬、東洋のはずれの半島から西洋のどこかの街に連れ去られてしまったのではないかと錯覚しそうになる。香港の雑居ビルと難民のバラックを見慣れた眼には。オトギバナシの世界に紛れ込んだような気さえする。
◇マカオの丘の美しい洋館。南欧風の家。美しいものの描写がいい
※リン、とひとつ鳴らすと、奥の部屋から、ポルトガル人と中国人の混血らしい、美しい歩きかたをする女性が出てきた。どんな御用ですかというように背筋の伸びた、知的な眼をした女性に顔を向けられ、「部屋はありますか」と口走ってしまった。
◇混血は美人が多い。その表現がなんとすばらしいことか。
※何より気に入ったのは天井が高いことだった。普通の倍はある。ふと、自分はこんなに天井の高い部屋で寝起きしたことはあったろうか、と考えてしまうくらいなのだ。幸せな気分になって、窓のブラインドを開けた。外の風景を見て、思わず声がでた。そこには海があったのだ。
◇部屋の描写、こんなへやに泊まったことがあるが、こんな表現はできなかった。
※人の出ないところの場面は、ほとんど興味をひかない。マカオ特有のゲームやカジノの話。12ページは飛ばした。
それからも別のカジノでのウエーターの話。全然気が乗らなくて、15ページを
飛ばした。マカオでは賭け事しか書くことがないのだろう。
※それから三十分以上もベッドの中でぐずぐずしていた。眼が覚めたら起きる、というごく単純な習性の持ち主である私としてはかなり珍しいことだ。※頭の芯に痺れるような疲労感が残っていた。
◇自分を客観的に観察する。
※海に眼をやると、いつの間にか雨足が激しくなり、橋の半分が霞んで見えなくなっていた。海の途中で橋が宙に消えている。夢幻的な美しい光景だ。
◇美しい文章である。
※スペイン語教師が、マカオを「歴史の博物館」と呼んだが、小雨の中で物音ひとつ聞こえないこの街は、化石そのものであるかのようだった。歴史の遺物とともに暮らしているうちに、すべてが歳月のしょうきに当てられて生気を失った。
◇風景を自分なり解釈し、美しい文章にするのか
※カジノで千ドルの金など、負け始めれば瞬く間になくなってしまうだろう。やめて帰ろうという判断は賢明だ。しかし、その賢明さにいったいどんな意味があるのだ。大敗すれば金がなくなる。旅を続けられなくなる。旅をやめてしまえばいいじゃないか?私が望んだのは賢明な旅ではなかったはずだ。むしろ、中途半端な賢明さから脱して、徹底した酔狂の側に身を委ねようとしたはずだ。ところが、博打という酔狂に手を出しながら、中途半端のまま賢明にもやめてしまおうとしている。賽は死、というのに、金を失う危険すらもやめてしまおうとしている。分かったようなっ顔をして帰ろうとしている。心が騒ぐなら、それが鎮まるまでやりつづければいい。といって博打場に行く。
◇この旅は、酔狂の中に身をゆだねることだった。計画的、打算的は打ち破る。
※一時は一万ドル近くを手に入れながら、一瞬にしてすべてを失ってしまったオバサンは、未練そうに椅子に座り続けていたが、やがて悄然と席を立って行った。
◇博打の射幸心を利用され、最後に欲をかきすべてを無くす。世の常識を示す。
※若い二人連れパンタロン姿の女性登場。ディラーの言われた通りに賭ける。大勝した姉妹が、配られた紙幣をすべてハンドバッグに仕舞うと、満足そうな笑みを浮かべ立ち上がった。「もうこの辺でやめておくわ」と言う。こういう手があったのだ。いかにmのカモのような顔をして歩き、呼び止められるとひっかったようなふりをして、言いなりに賭け、ゾロ目がでる一歩手前でやめてしまう。彼女たちはこのインチキな仕組みを知っていたに違いない。
◇博打の仕組みを説明しているのか、人間心理をついた博打の
※立ち続け十五時間、いろいろな博打に挑戦した。結局、千二百ドル近い負けから、二百ドル程度の負けまでに挽回することができた。博打の天国と地獄を垣間見ることができた。満足している自分を感じた。
◇いっそ地獄へ落ちるほど負ければよかったのにと思う面もある。長すぎる。


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