第53話 深夜特急 沢木耕太郎

文字数 2,140文字

美奈子先生は、貴方の作文はグダグダと書いて、面白くもなんともない。紀行文だったら沢木耕太郎でも読んだらと厳しい。
美しい言葉はどんなものなのか
美しい表現はどんなものなのか
※別に祭礼といったわけでもなさそうなのに、凄まじい人出だ。もしかしたら、香港は毎日がお祭りなのかもしれない。八時半に日が暮れ、涼みながら夜店を冷やかし、一家で屋台の食事をとり、家に帰って寝る。平凡だがなんという豊かな日常。だが、これが果たして日常と言えるのだろうか。
◇観察力というか洞察というか、素晴らしい表現である。
※その人々の流れに身を委ねながら、私は激しく興奮していた。なぜ自分がこんない熱くなっているのか分からない。しかし、とにかく、これが香港なのだ。今まで私がうろつき廻っていた場所など、ここに比べれば葬儀場のようなものでしかなかった。これが香港なのだ。
◇自分の身のうちに湧き出る感情を表す。
※人と物が氾濫していることによる熱気が、こちらの気分まで高揚してくれる。
◇具体的事実を描写し、最後に普遍的見解を分かりやすく述べている。
※香港には、光があり、そして影があった。光の世界が眩く輝くほど、その傍らに沁み入り、眼をそらすことができなくなったのだ。
◇抽象的なことを内部心情を表現する。哲学者でなければならないのか。
※この香港においても、持てる者と持たざる者の対照は露骨なほどはっきりしていた。しかし、持てる者が常に豊かで、持たざる者が常に貧しいかといえば、それはそう簡単なことではない。
◇なんと、哲学的なことをサラッと書くことだろう。
※湾は小雨に煙って無数のサンパンに埋めつくされていた。ここは香港のような観光地ではない。ただ人が住むためのサンパンがあり、バラックがあるだけの土地だ。
◇場所の説明だが、眼に浮かぶような描写が羨ましい。
※湾の近くに屋台が何軒も並ぶ食堂街があった。その中の一軒のそば屋があり、とてもいい匂いがする。オバサンがソバを作るのを見ていると、日本の駅の構内にある立食いソバの作り方とほとんど変わらない。
◇屋台の状況を駅そばと比較し、読者に分からせる。すごい丁寧な描き方。
※彼の身なりも粗末だった。機械油で汚れた黄土色の半袖シャツに、長いものをハサミで切っただけの七分ズボン、それにサンダルをはいている。
◇人物描写がポイントを的確につく。あっさり表現。
※どれくらい喋っただろう。不意に彼がソバを食べようという。オバサンに頼んで作ってもらった白い麺のソバは、味も日本うどんに似ていて、さっぱりした塩味のスープによく合った。
◇食べ物の描写、見事!
※彼は料金も払わず帰ってしまった。見事な手際でタカられたことにがっかりしながら、エリザベス女王の肖像が刻まれているコインを取り出した。ところが屋台のおばさんはいらないという。彼がこう言って立ち去ったらしいのだ。この二人分はツケにしておいてくれ、頼む・・・。明日、荷役の仕事にありつけるからと。失業している若者に昼食をおごってもらっていたのだ。
◇結論はいわず。たかられたと思っていた。オバサンは彼が去り際、明日仕事にありつけるので、必ず二人分払うからツケにしてと頼んだ。短いストーリ。
※一瞬でも彼を疑ったことが情けなかった。王侯の気分をもっているのは、無一文のはずの彼だったことは確かである。
◇普遍的な見方を披露。さすが。
※金がないわけではなかったが、これからの長い旅を思って節約して使っているうちに、宿に出入りする誰からも文無しとみなされるようになってしまった。
◇自分を客観的に表現するのも、理由をつけうまい。感心することばかり。
※孤寒。その優雅な言回しと裏腹の冷え冷えとした文字の姿の中に、本当に私の性格とその未来が隠されているのではないかと思えてきた。
◇美しい言葉。意味を考え表現する。素晴らしい。
※香港に着いたとたんに急に英語がうまくなる、などという奇跡がおこるはずはない。単語を並べるだけの英語であることに変わりはなく、少し込み入った話になるともう口が動かなくなってしまう。だが、それを恐れることはないということが分かってきたのだ。口が動かなければ、表情が動く。それでどうにか意を伝えることができる。大事なことは、実に平凡なことだが、伝えようとする意があるかどうかということだ。
◇語学の会話の神髄をついたことば。日本にいたら英語は喋れない。現地に行けば、人間同士分かり合える。そう私も感じる真理をうまくついている。
※英語で訊ね。答えが返ってくる。すると、その中に、英語に独特の言い回しが含まれていることに気づく。記憶し今度はそれを人に対してすぐ使ってみる。通じればそれで確実に言葉を一つ覚えたことになる。そうしているうちに、英語に対して委縮していた心が伸びやかに広がってくる。少なくとも私はそうだった。
◇経験したことを、ルールに当てはめる。
※光の溢れる日中には、青い海の上に真っ白な航跡gさ描かれ、その上をゆったりと鳥が舞う。大気が薄紫に変わる夕暮れ時は、対岸の高層建築群に柔らかな灯が入り始める。そして夜、しだいに深まる闇の中で、海面に光るネオンが美しい文様を描いて揺れるのだ。
◇フェリーでの光景を、美しい文章でつづる。羨ましい。

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