第40話 前原宿 木材の杜

文字数 1,060文字

前原宿の北側は地名が新田二号という。江戸時代はここは海沿い海岸であった。徐々に干拓事業が進み、現在では住宅街が広がっている。海を埋め立て、土地を作り、そのうち農作物を植えることなるが。土地は塩を含んでおり、作物を作れど塩害で市場に出せるような物はできなかった。菜の花は塩害にも強いということで、当時は菜の花畑が広がっていた。菜種油を搾り、一つの産業として発展していた。また、近辺ではロウソクにするハゼの木を植え、原料を他の地域に集荷する事業も盛況だったという。
前原宿に残る豪商の博多町屋は、旧西原邸で唐津街道の前原宿に店を構え、米・麦・ハゼの集荷を行い、また両替屋も商っていた。明治34年建築の建物である。古い建築物だが、今でも立派に維持されておりオーナーが所有し、建物保存の為、別の経営者が「木材の森」という名前でレストランを経営している。多くの来客もあり、繁盛している。土日は予約が必要なほど満席のようだ。一階部分が畳と欄間のある三部屋を客席とし、アンティークなテーブル椅子が十セット配置されている。欄間は当時の物で職人の手彫り技術は見事である。床はホットカーペットを敷き、客への気遣いが感じられる。出る器も良い。広い廊下の向こうに庭が見える。暖房も効いた部屋、十二畳に四テーブル、ゆったりと女性客が、お喋りと食事を楽しんでいる。我々が着席した時に居た客が、私らが食べ終わったときも、静かに、にこやかに談笑を続けていた。ゆうたりくつろげる場所なのだろう。建物の管理状態はよく、庭を見る窓ガラスはアルミサッシに改修されている。二階部分の和室も五部屋位あるが、此処は古い室内の見学スペースとなっている。入り口を入った所は二階に吹き抜けになっており、天井にはロープの付いた滑車がある。二階へハゼ材や、仕入れ材などをつり上げ、運ぶためのものらしい。二階には帳場もあり、下の状況を見渡せる造作になっている。
 すぐ近くに町屋数軒を壊し、マンションが建てられている。この旧西原邸は建物保存の為、商売人と建物所有者がタイアップして、この建物を維持していこうという心が、この素晴らしい明治遺産を残している。ランチは二千円で、お客はゆったり料理を楽しみ、友人との会食も楽しんでいた。
二階の見学も百円で出来るというので、吹き抜けにある階段を上った障子で仕切られている部屋が何部屋もある。大勢の人が働いて居たのを想像できる。中年の女性店員も丁寧で愛想もよい。
連れが数年前、友人とこの地へ来たが、木材の森は満席で、外の所で食べたと言っていた。
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