第6話 十三夜 上 樋口一葉

文字数 1,211文字

□いつもは黒塗り車が止まり、両親が出迎える。両親は娘「お関」が良家に嫁いだと喜ぶ。
鬼のような夫と離縁したく、今宵は辻乗りの車で、実家の格子戸の前に悄然と立つ。父が気付き家に入り、「夜なのに何かあったか、子の太郎は連れてこなかった」と聞く。母は「今宵は十三夜、月見団子を作り、お宅へ届けようと弟に頼んだが厭がる、わざわざ来てくれ夢のよう」「出世し立派な身分の高い原田家の妻となり、気骨が折れるだろう。里方と身分も違い肩身が狭かろう」と言う。お関は「私は親不孝、立派らしくみえても、両親に何も出来ない自分の皮一重、賃仕事して、お側で暮らしたい」と言うと父は「夫の勇さんの気に入るよう納め、その運に耐えなさい」と、なだめ、団子を勧める。「もう10時になる、帰らねば」と父は言う。畳に手を突き、憂き涙を流す。「原田の家に帰りません。嫁入り7年になり、朝から小言が絶えず、私の不器用不作法を召使いの前で咎め尽くし、無教育の身と蔑むのです。嫁入り半年間は大切にして、子供が出来てから人が変わり、思い出しても恐ろしい。私に飽き、虐めて離縁させる気でしょう。太郎の乳母として置くと嘲けて仰る。名のみ立派な原田勇に離縁されても、名残惜しくない、が太郎は不憫でならない」とお関が物語る。母は「お関が17歳の正月、追羽根し羽根が原田様の車の中に落ちた。それが縁で、嫁に貰いたがり、身分も違い幾重にも断るが是非にと結婚した。
妾や親無し子を拾ったわけでなし、よくそんな口が利けたもんだ。小言を言うなら家を出てくるが良かろう」と、猛り狂う。父は「初めて聞いたが、並大抵の事ではないだろう。困った仲になった。一旦、離縁すれば我が子の愛に立ちがたく、不幸な身に陥る。勇さんも道理を心得、利発で、学者である無茶苦茶虐める訳では無いだろう。我が儘で内向きは、当たり散らし、的になり辛いだろう。それを機嫌の良いように調えるのが妻の役目。弟も原田さんの口入れで良い職場にありついた。太郎という子もあり、今日まで辛抱なれたのなら、これからも辛抱できるはず。太郎は原田のもの、一度縁がきれたらもう会えない、同じ不運に泣くなら、原田の妻で大泣きしろ」と因果を含める。お関はわっと泣き「離縁は我が儘でした。太郎の顔も見れないなら、この世にても甲斐がない。死んだ気になれば、今宵限り関はなくなり、魂があの子の身を守る。良人の虐めも、100年辛抱できます」と涙する。「今夜のことはこれを限りにし、私の体は勇の物だと思い、思うままにして貰いましょう」と言い家を後にした。
※素晴らしきかな樋口一葉、一気に上を読みました。あらためて五千円札を見ました。価値ある天才です。美人薄命24才で病死するまで、多くの小説を書いた。一つ小説を書いて、月給分の報酬で、生活は苦しかったらしい。文体というのが、絢爛豪華な感じで、初めて読んだが、インパクトがあった。下はどうなるのか楽しみ。
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