第68話  知の仕事術 池澤夏樹

文字数 1,018文字

良い本に出合った。私が回答を求め探していた作文の指南書を見つけたような感じだ。読んだ最初のページから引きつけられて行く。作文が上手くなりたいと努力錬磨してきた。私の文章は「見て聞いてきたことだけ書いてあり、面白くもなんともない」と、みな子先生に酷評される。「何処が悪いの。これまで、ずーっとこの感じで生きてきて、特に問題は無かったのに。勉強は暗記する事だと思っていた。それが実サラリーマン社会で通用していた。平凡な生活をして年金も貰え普通に生活してきたのに」。私の作文と信じていたものを、全否定された。強烈なパンチで眼から火がでそうな屈辱だった。戦後教育を受けて、暗記だけ見て聞いたことだけでは、駄目だと言うことが、最近漸く分かった。みな子先生だって戦前の生まれなのに、教育は同じでも受ける生徒の能力によって違うのだろうか。私は中の成績を通し続けた。平凡だったのだ。みな子先生は天才だったのだろう。今頃ようやく、見て聞いて、それに自分の思想を付け加えて作文と言えるのだということを知った。クソ・今からでも遅くない。あと十年は生きるだろう。その間に作文を一人前に書きたい。
洞察力は私には無いと、テレビでアストリッドを見たとき感じた。ものごとを見て聞いたうえで、その中に見えない要素を推測し、本質を見極めるのが洞察である。私は物事見て、深く考えなかった。考える、予測する。数学は考えないと、暗記だけでは上手くいかない。苦手意識があり、文系の学校に進んだ。考え、論理を構築する。頭の良い人が考えることだと思った。
池沢氏は言う「○反対する意見を捜して比べることを思い及べ。わたしは反対意見を押さえ込み、自分の意見を通そうとした。○ある件につき、過去の事例を引き、思想的背景を述べ、論理的な判断の材料を提供せよ。わたしは論理的ということが分からず、直感的に判断していた。○生きる為には軽い順に一「情報」二「知識」三「思想」が必要である。私には思想などは遠い存在だと思っていた。○「知識」はある程度普遍化された情報。わたしは普遍化ということが分からない。○「思想」とは「情報」や「知識」を素材にして構築される大きな方針である。哲学や宗教を含む大きな器である。○世の中に向かうときに大事なのは、「何が答えか」ではなく、「何が問題か」というほうだ。わたしはここ二年の間に多くの本を読みあさった。「知の仕事術」を少し深く勉強し、文章を突き破りたいと思う。
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