第34話 白 芥川

文字数 767文字

白は裕福な家に飼われている犬である。生垣の隙間から、そとへ出て通りを歩いた。路地を曲がると、その先を見て驚いた。犬殺しが、罠を後ろ手に持ち、黒い犬を狙っている。黒は白の隣の犬である。声を掛け危険を知らせようとしたが、声が出ない。犬殺しが振り向き、白を睨み付けた。白は、声も出ず怯えて、一目散井逃げ帰った。庭でお嬢さんと坊ちゃんが遊んでいた。「お兄さん変な犬が入っていたよ。黒い犬」兄は棒で白を叩いた。「僕は白だよ」と主張するが、兄は「出ていけと砂利まで投げつけた。白は外へ飛び出した。自分の体を見ると、黒い毛になっていた。白は自分の姿が変わりはて、家に帰れないのを悟った。その後、生きることに失望し、自殺しようと思った。列車に飛び込もうとしたが、目の前に五歳の子供がころんでいた。迫りくる汽車から子供を救い出した。山で死のうと思ったが、目の前に遭難者がいた。助けを求め近くに救助の人を案内し、白は忽然と消えた。死のうと思う度に、苦難に逢っている人を助ける羽目になった。
ある時、公園で子犬が子供たちに、棒でたたかれたり、けられたりしていじめられていた。以前の白だと、知らんふりして逃げて行った。今や、死ぬ気でいる白は、子供たちに、白い牙を見せ
大声でワンワンと吠えたてた。子供たちは逃げて行った。助けられた子犬は礼を言い、母犬に紹介するという。しかし白は「いいよ。僕は行くところがある」と去って行った。
死ぬ前に、お世話になったご主人の顔を見てと思い、犬小屋に戻った。ついうとうとして寝てしまった。「白が帰っているよ」とお嬢さんの声を聴き、びっくり目が覚めた。兄もでてきて「あ!白だ」と言う。お嬢さんは白を抱き「どこへ行ったのよ」と涙を流した。「お父さま!白が帰ってきたよ」という娘さんの瞳をみると、白い犬が犬小屋の前にいるのが写っていた。
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