第42話 村上春樹 雑文集

文字数 314文字

「小説家とは、多くを観察し、わずかしか判断を下さないことを生業とする」
多くの正しい観察の無い所に多くの正しい描写はありえないからだ。
なぜ小説家はわずかしか判断を下さないのか?最終的な判断を下すののは常に読者であって、作者ではないからだ。
小説家の役割は、下すべき判断をもっとも魅惑的な形にして読者にそっと手渡すことにある。
小説家が自分であれこれものごとを判断を下し始めると、小説はまずつまらなくなる。深みがなくなり、言葉が自然の輝きを失い、物語がうまく動かなくなる。
小説家がなすべきことは、結論を用意することではなく、仮説をただ丹念に突き重ねていくことだ。どれくらい自然に巧みにそれを積み上げていけるか、それが小説家の力量になる。
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