第16話 十三夜 下 樋口一葉 

文字数 629文字

さやけき月に風の音添いて、虫の音たえだえに物がなしき上野へ入りてより、車夫が梶棒をとめ「お代は要らないので、降りて下さい、引くのが嫌になりました」という。「お前は我儘な車夫さんだね。せめて代わり車がある広小路まで行っておくれ」と頼む。お関は車夫の顔をみて、誰かに似ている。「お前さんは小川町の煙草の高坂の録さんでは」と声をかける。子どもの頃、仲が良く行く末は、あの煙草屋へ嫁入りをと思っていた。「貴嬢は斎藤のお関さん。面目ない」録さんは、若い頃から放蕩を尽くし、結婚し子供も出来たが、遊び惚けて家業を潰し、家族も離散。今や、安宿の村田の二階に泊まる車引きになってしまった。「貴嬢と知らず不調法。さあ、お乗り下さい」と広小路まで車を曳く。車を降り、お関は紙幣をいくらか包んで「録さん、失礼なれど、これで鼻紙なり買って下され。体を大切に、伯母さんを安心させ、以前の録さんにおなりなされ」と挨拶、「有り難く頂戴し思い出にします」空車引き其人は東に、此人は南へ、村田の二階も原田の奥も、憂きはお互いの世におもうこと多し。
※上の流れに続き、下は実家からの帰り道、幼なじみ録の助の落ちぶれた車夫と出会う。そこで
お互いの、過去を振り返る場面で、作品は終わる。その先は、一体どうなるの、と期待したが、後は読者の判断に任せるということらしい。筋としては、がっかり物足りない。しかし、筋ではなく表現する言葉が珠玉に包まれ、作品の高尚な雰囲気を、樋口一葉のオーラを醸し出している。
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