6-7 ミッション:バースデーデートを攻略せよ!
文字数 3,679文字
そんな、少女漫画のヒーローの決め台詞のようなことを言う実ちゃんと共に、僕は特急列車に乗り込んでいた。
仕事終わりにご飯デートや映画デートは、『練習』の時も恋人になった後も何回もしたことがある。でも、通勤ルートから外れた路線を利用するデートは初めてだ。方角的に県を跨いでしまいそうな地域なんだけど、一体どこに行こうとしてるんだろ。
まさか、泊りがけ? それは仕事的にすご〜く困るんだけど!
スマホを見ながら実ちゃんがしれっと答える。電車に乗ってからずっとスマホ見てるし、返事も何だか素っ気ない。
がたん、と大きな音と一緒に実ちゃんが僕の方に倒れこんできた。
思わずひゃ、と悲鳴を上げて後ずさりしたら、ごん、と後頭部に鈍い痛みが僕を襲った。
うう、実ちゃんの吐息にすら、体が勝手に反応しちゃう。
けど、実ちゃんの言う通り、人口密度が高いから、距離を取るどころか、身動きも取れない。あと15分もこうしてなんかいられる自信ないよお。
あ、炭酸も入ってるのかな、口の中で弾ける食感が楽しい。
と、まあ、実ちゃんに妨害されただけでなく、混み混みの電車の中じゃ身動きも取れず、結局場所の検討もつけられることもできなかった。
僕は何度もこくこく、と頷く。
この遊園地。子供の頃、何度も訪れたことがあるところだ。入り口の看板も、すぐに見えるメリーゴーランドの赤と青の三角屋根も、奥に見える青に光る観覧車も、昔のまんまだ。
僕に拒否権は本当になしみたいだ。
僕はリュックを揺らして、実ちゃんの背中を追いかけた。
この感覚、随分久しぶりだな、と密かに笑いながら。
ニンマリとした実ちゃんが、ミラオニ攻略シートにさらさら、と見つけたオニオの場所を記入する。それを横目に、僕はベンチでぐったりしていた。
原因は最初に乗ったジェットコースターだ。元々絶叫が苦手な僕は、1度乗っただけでノックアウトだった。
その後、僕がベンチで休憩している間にも、実ちゃんはジェットコースター3連続に、コーヒーカップ、回転ブランコと、とにかくハードなアトラクションを1人でこなしてしまった。あんなに上下に揺さぶられたり、ぐるぐる回ってたりしたのに、実ちゃん、全然疲れてない。むしろ、入園前より興奮してる気がする。
拳を握って必死に訴えると、実ちゃんはにやっと笑って攻略シートをポケットにしまい込んだ。
そんなこんなでやってきたVRシューティングゲームエリア。
専用のVRゴーグルを装着し、バーチャルの世界でリアルなシューティングを行える所で、この遊園地で1番人気らしい。
ステージや登場する敵はみんなミラオニと同じものが用意されていて、使用するギャラクシー砲(見た目は水鉄砲みたいな銃で、7色の光線が螺旋状に噴射されるのだ)までゲームと同じですっごく感激してしまった。
ステージごとに雑魚敵を必要数倒して、最後に登場するボスを倒せばゲームクリアだ。
実ちゃんは最初からガンガンにギャラクシー砲を撃ち、確実に敵を蹴散らしていく。
対する僕はといえば、5発中、1発当たるという下手っぷりを披露しながらも、忠実すぎるゲームの世界観に感動していた。
実ちゃんの活躍により、現れたラスボス『エンマ』。ナマハゲのようなお面を被りトゲトゲのバットを武器に持つソイツはラスボスだけあってHP値が高く、着実に撃っていても、なかなか終わりが見えてこない。
身軽に『エンマ』からの火炎放射攻撃を避けながら、実ちゃんが叫ぶ。実ちゃんが敵を引きつけてくれているおかげで、僕はたまに襲いかかってくる火の粉を何とか避けているけど、ジリジリと自分のHPを削られている。
ラスボス戦前に一応弾丸補給はしたし、始まってからは実ちゃんの指示であまり撃ってもいない。
そうだ。ある程度弾丸が溜まっている状態だと、「必殺技」が使えるんだよね。
外したら無駄撃ちになっちゃうけど、敵が実ちゃんに集中してる今ならーーいける!
引き金をぐぐ、と引きながら、僕はボスに標準を合わせた。
ギャラクシー砲全体が虹色に輝いた瞬間、僕は引き金を離した。
灰色のゴーグルを外すと、真っ先に飛び込んできたのは実ちゃんの笑顔。ひらひらと右手をあげる彼を見てたら、胸の奥が突然熱くなって。
ぱちん。
気がついたら、実ちゃんの右手に自分の左手を重ねていた。
でも、僕の体はぴくりとも反応しない。
心臓は飛び跳ねて、忙しないリズムを刻んでいるけど。
お互いにこぼしたのは、いたずらが成功した時みたいなちょっぴり悪どい笑い声。
でも、その声すら心地よくて、ずっと実ちゃんと馬鹿みたいに笑っていたいなあって思ったんだ。