3-7 お風呂の時間
文字数 3,911文字
ふわふわと、僕の右横で柔らかな湯気が漂っている。匂うのは、お風呂に入れた『究極の入浴剤』のもの。ミルクに似た甘い匂いで、嗅いでいると頭の芯がぼうっとしてくる。
僕は、夢を見ているのかな。……何だか、そんな気がしてきた。
ざばーっと容赦なく頭の上から掛けられたお湯。
その熱と勢いのある音に、僕は思ってしまった。
これは現実なんだと。
何故か誇らしげな笑顔はいつもの実ちゃんのはずなのに、髪を下ろして全体的にしっとり濡れているせいなのか、妙に色っぽく見えてしまう。
きょとんとして首を傾げる実ちゃんに、僕は何でもない、と慌ててそっぽを向いた。
どうして、僕が実ちゃんと一緒にお風呂に入っているのか。
それはほんの10分前、実ちゃんの「泊まるから!」発言まで遡る。
そう言って、ウインクする実ちゃん。
フリフリの可愛いエプロンのせいなのか、今日の実ちゃんがやたら可愛く見えてしまう。
っていうか、そのエプロン、一体どこから手に入れて来たんだろう。おばあちゃん、そんなフリフリのエプロンしないはずだし、実ちゃんの私物かな。何で持ってるんだろ……。
……と、自分の思考を含めて、もう色々突っ込みどころ満載で、考えるのが面倒になってきてしまって、
と言う訳で、僕は早速お風呂に入ることにしたんだけど。
その後、何故か実ちゃんも一緒に入ってきたのだ。全裸で。
なんて、まるでお皿でも洗うみたいに言って。
もちろん、
「やらなくていいよ。っていうか、嫌な予感しかしないからしないで。なんなら土下座するから今すぐ出て行って下さいお願いします」
ってちゃんと断ったんだけどね。
そんな僕の言葉はまるっと無視され、今に至るという訳だ。解せぬ。
わしゃわしゃと音を立てながら、実ちゃんが僕の背中をスポンジで擦り始めた。
実ちゃんのことだから、ガシガシ擦るのかなって思ったけど、ビックリするくらい手つきが優しい……というか、くすぐったい。そのくすぐったさがまたドキドキを増長させているようにも感じる。
おかしいな、実ちゃんとキスできるようになった頃から、例の『動悸』は気にならなくなっていたはずなのに。
今日はやけに僕の中で響いていて、落ち着かない。
ぐいっと思い切り肩を引っ張られたかと思うと、僕は風呂椅子からずり落ちて、大きく仰け反ってしまった。
……っと。
僕の体を、実ちゃんが後ろでキャッチしてくれたのはありがたい。
……んだけど、お互いに裸だから……実ちゃんのアレとかソレとかが、僕のお尻や背中にダイレクトに当たってしまってる訳で……。
わしゃわしゃ、とくすぐったい感触が再び僕の背中を滑る。
あの頃は楽しかったよなあ。
週末になると、ここに遊びに来て、そのまんま泊まることになってさ。
おばさんに怒られるまで、2人でぎゃーぎゃー騒いでたよな。
特にお前と一緒にいると、そう思っちまうんだよなあ。
お風呂も寝る時も……怖い映画を見た時はトイレも一緒だったっけ。
実ちゃんといれば、何にも怖くなくなったし、楽しかったんだ。
お前だけ、まだガキのままだったりして?
そこは「そんなことないよ、僕も24歳の大人だよ!」って全力で否定するとこじゃん。
誤摩化すように笑ってみたけど、覇気のない笑い声になってしまった。
今日の仕事が終わったら、朝起きるまで、仕事のことは何も考えないようにしよう。
そう決めて、今日は久しぶりに持ち帰りの仕事をゼロにして帰ってきた。実ちゃんが現れたことで、更に仕事からは気持ちが離れて……ちょっとだけ、期待したんだ。この流れでいつもの僕に戻れないかって。
でも、やっぱり、あの失敗は僕の中で深い切り傷になっていて。
些細な言葉でも、こんなにあっさり気持ちが下向きになってしまう。
俺は洗ってるだけだしぃ〜?
実ちゃん、完全に面白がってるじゃん。
抵抗も虚しく、僕の下腹部は実ちゃんの意地悪な手によって撫でられたり揉まれたりされてしまう。
泡だらけになってしまったお腹への刺激に唸りながら耐えているうちに、僕は唐突に下半身が昂るのを感じてしまった。
僕の声に遅れて、実ちゃんも意味深な声を上げ、お腹へのくすぐりをぴたり、と止めた。
慌てて両手で隠したけど、見られた……よね。そうでなくても、両手で股間を抑えてる時点で、男なら察しちゃうし。
ちら、と振り返ると、実ちゃんはある一点を見つめたままぽかん、としている。
その視線の先には……うん、勘弁して。
唖然とする僕の両手をあっさりと払いのけると、実ちゃんは素直に昂ってしまったペニスをきゅっと掴んでしまった。
ワンテンポ遅れてハッとする僕だったけど、既に遅し。
手の中に収まった僕のソレを、実ちゃんは何の躊躇いもなく扱き始めてしまった。
確かに。背後から口を塞がれた上にペニスを握られてる状況は、お母さんに見られたくない。
でも、だからって実ちゃんに抜いてもらうのは嫌……というか、恥ずかしい。
ついこの前だって、実ちゃんとのキスで抜いちゃって、穴に埋まりたいくらい恥ずかしい思いをしたのに。
実ちゃんの手を掴んで止めさせようとするけど、ダメだ、全然力が入らない。
恥ずかしさが増しているせいか、それとも蓄積した疲労のせいか、はたまた擦られていることへの気持ち良さのせいか、とはあまり思いたくないけど……僕の体はどんどんと力が抜けてきてしまう。
大丈夫だからな、任せろ。
何が大丈夫なんだ。
そうツッコミを入れたいけど、実ちゃんの手つきが的確すぎて、目の前がぼうっとしてきた。
泡の音と僕自身から零れ落ちる卑猥な音が狭い浴室に響く。
それが更に僕の熱を昂らせるから、もう、こうなると止められない。
ドキドキとふわふわの湯気に囲まれながら、僕はぎゅう、と目を瞑った。