6-9 秘密の夜
文字数 2,971文字
誰もいない家で、実ちゃんと2人きり。
それは多分、生まれて初めてのこと、かも。
薄暗い自室の中で、シャツの下へ潜り込む実ちゃんの手を感じながら、僕はそんなことをぼんやり思った。
実ちゃんの唇は僕の耳や首筋を舐めることに執心で、とてもお喋りしてくれる気配じゃない。
……いや、僕だって無理だ。実ちゃんに触られているところ全部、もぞもぞと落ち着かなくて、腰が浮いてしまう。
実ちゃんが僕の顔を覗き込んでくる。嫌、って聞いておきながら、シャツの下に潜り込んだ右手は乳首をぐりぐりと弄っていて、僕はたまらず唇を噛んだ。
自分で『準備』していた時はこんなに早く体中が火照ったり、ちょっと触っただけで敏感になったりしなかったのに。
実ちゃんが不安げに眉を寄せる。
心配そうな顔される程、今の僕はおかしな顔をしてるのかな。
拗ねたように言われて、そのまま乳首を食べられた。唇で感じるより、実ちゃんの口の中が熱い。
全身をぐりぐり弄られて、唇でたくさん触られた後、ようやく実ちゃんの手が僕のお尻に触れてきた。
たくさん触られて大分慣れたし、自分でも散々慣らすために触れた場所だから大丈夫、と思っていたけど、いざ本人に見られて触られるのはとても恥ずかしい。しかも、ここにきて実ちゃんの触り方がゆっくりで、焦れったくなってしまったから、その恥ずかしさは更に増してしまって。
む、と実ちゃんが微かに頬を膨らませながら、でも滅茶苦茶真剣な顔で僕のアナルを触っている。
ローションと僕の日頃の練習のお陰か、実ちゃんの指は難なく飲み込まれている。指が這いずるにつれ、1度射精して力を失ったペニスがむくむく元気になるのが分かった。
せがむ間も無く、ずぶ、と指がもう1本追加された。狭い窪みをぐるぐると這い回り、徐々に広げながら、ゆっくり奥を目指していく実ちゃんの指。自分でも同じことをしてるはずなのに、全然違う。
と、不意に実ちゃんの指が動くのをやめた。
実ちゃんの指先が、あるポイントを擦った瞬間、僕は頭を殴られたような衝撃を受けた。
咄嗟に両手で口を抑えたけど、全身がびくびくと微かに震えてしまう。
耳元でそう囁かれながら、また何度も擦られる。
気持ちいい、好き。実ちゃんの言葉が呪文みたいに僕の頭の中でぐるぐると巡る。
声に出したら、ますます気持ちよくなった。
だめ、このまま擦られてたら、また1人でいっちゃう。
そんな実ちゃんの声と共に、指がするりと抜けていった。
身体中が心臓になっちゃったみたいにびくびくしてる。
指が抜かれてしまった寂しさからせがむように実ちゃんの名前を呼んだけど、実ちゃんは何も言ってくれなかった。荒い呼吸をしているし、頬も真っ赤だけど、その表情は甘いと言うよりも、苦しみを我慢しているようだ。心配だけど、言葉が出てこない。
実ちゃんは開封したコンドームを口にくわえて、自分のズボンのチャックを開けた。
ズボンが擦れる音と、実ちゃんの荒い吐息。僕の、寂しさで震えるアナルにぐ、と熱いものが押し当てられたのは、突然のことだった。
ついに、きた。
きた、けど……実ちゃんの表情が相変わらず固いのが気になってしまう。
俺、お前とするなら自分が抱く側になるって分かってたし、実際するならそうしたいしって思ってた。
ネコとしてなら、セックスの経験あるし、どうすればいいのかも自分の身を以て分かってるはずだった。
だけど……やっぱり、すげー緊張しちまうんだよ、初めてだから。
僕にとっては、実ちゃんが初めての恋人で、デートをするのも、キスをするのも、セックスをするのも全部、実ちゃんが初めての相手でしょ?
でも、実ちゃんは違う。僕よりもずぅっと前に、僕以外の初めての恋人を作っていて、その後もたくさん、色んな人と付き合って。デートもキスもセックスも全部、僕以外の誰かと経験しちゃってるじゃない。
仕方ないことだって分かってるよ。時間は巻き戻せないし、今だって十分幸せ。
そう思ってたけど……そっか、実ちゃんはずっと『ネコ』だったから、これが初めての『タチ』、なんだよね。
だから、僕がその『初めて』を貰えるんだなあって思っちゃったら、もう、飛び上がりそうなくらい嬉しい。
もう1度実ちゃん、と呼びかけた僕の声は、キスで塞がれて。
そのまま実ちゃんは僕のナカに押し入ってきた。挿入直後は、お互いの舌が怯んだように離れたけど、次第に確かめるように触れ合い、絡み合うようになった頃、繋がったところも大きく動き始めた。
痛いのか辛いのか、気持ちいいのか嬉しいのか。よく分からないまま、僕は目の前の実ちゃんに縋り付く。
すると、実ちゃんが僕の耳元で名前を呼んだ。
こはる、こはるって。小さい頃から変わらない、大好きなリズムで。
内側と外側で、実ちゃんをぎゅーっと抱きしめながら、僕も何度も大好きと伝えて。
2人揃って熱を吐き出した後も、ずっと抱きしめたまま動かなかった。