6-2 君の全てを受け止めたい!(物理)
文字数 4,275文字
自分でもあからさまだと思うくらいテンションの低い声で自室のドアを開けると、まぐろがぴょん、と飛び出してきた。
おばあちゃんは寝てる時間だし、お母さんは例によって書斎に缶詰になるって今朝宣言してたから、構ってくれる相手に餓えてたんだろう。
僕の周りをくるくる、と回ってにゃあにゃあと甘い声で鳴くまぐろを、よしよし、と撫でる。満足げに喉を鳴らすその姿が可愛すぎて、僕は思わずその小さな体を抱き上げた。
「そこまでは求めてないよ!!」とばかりにまぐろが僕の頬をべしべしとパンチする。
地味に痛いそれを静かに受け止めながら、僕は深々とため息を吐いた。
まぐろを抱えたまま、ベッドへ身を投じる。
まぐろは素早く逃げて行ったけど、僕は構わずにベッドの上をごろごろと転がりながら唸って……うつ伏せになったところで、ぴたり、と止まった。
翌晩。日付が変わって間もない頃。
今日は家に帰れないことが確定した僕は同じく残業組の渡辺くんと、自販機の前でつかの間の休憩を取っていた。
何せ実ちゃんは、付き合ったら即体の関係を持ちたがるくらいスキンシップ大好きだし。
それを我慢してまで僕のことを大切にしてくれるのは……気恥ずかしいけど、愛されている証拠だとも言える。
でも、僕だって触りたいんだ。このままじゃ、やっぱりダメなんだよな。
下向きに思考が行こうとしたその時、渡辺くんがぽん、と僕の肩を叩いた。
「え〜! 何それ、結局下ネタなアドバイスなのぉ?!」
……って、渡辺くんには言っちゃったけど、その1時間後、僕はドキドキしながらネットカフェの1室で、パソコンと向き合っていた。
いやいや、何のためにここまで来たんだと自分を奮い立たせ、視聴したいタイトルを決めた。
背広を脱いで、ネクタイも外した後、僕は自分の胸元に手を当てる。
どどど、とかつてない程に速いビートを刻む心臓を落ち着かせようと、僕は何度も深呼吸を繰り返した。
そう叫ぶと、僕はとある動画の再生ボタンをクリックした。
僕が選んだ動画は『ぼくらのせいしゅん』というタイトルで、高校生の友達同士という設定のものだ。
お互いがお互いに片思いをしていて、なかなか友達から抜け出せない様子が丁寧に描かれている。その焦れったさは僕自身にも覚えがあるものだったから、ついつい見入ってしまって。
ようやく好き、と言い合った2人のシーンでは思わず涙ぐみ、鼻をすんすん鳴らしてしまった。
別の用途で使うはずだったティッシュで目元を拭った時、そのシーンは前触れもなく訪れた。
僕の戸惑いをよそに、ネコポジションだと思っていた男の子がそのまま四つん這いになり、タチ……かなあと思っていた男の子にお尻を向ける。
……ちなみに、ここは校舎裏で、真っ昼間。ネコの子の下半身はいつの間にか丸出しだった。
タチの子の、華奢な体躯に対して大きすぎるペニスが、ネコの子のお尻に擦り付けられた瞬間、僕はたまらず目を瞑った。
でも、耳はイヤホンを差したままだから防ぎようがなく、ネコの子の高らかな喘ぎ声に全身がびくん、と震えてしまった。
タチの子もタチの子で低いけれど、激しめに喘いでいて、僕の耳の中がものすごい状態になってしまった。
両手で顔をしっかり覆ってから、指と指の間から何とか歯を食いしばって画面を見る。
わあ、お尻がぷるぷる揺れてるし、立派なモノがじゅぽじゅぽ動いてる……。
男優さんってすごい。ネコの子は見た目もとても可愛いけど、エッチな声も可愛い。
僕もソッチだとしたら、僕もあんな声が出るってこと……いやいや、あんな可愛い声なんか出せる自信ないぞ……。
少し落ち着いて考えられるようになってきた僕をよそに、画面の2人が初めてキスをした。もちろん、繋がったまま。
ちゅう、と2人のリップ音に誘われるまま、僕は自分の指をそっと唇に押し当ててみる。
最後に実ちゃんとキスをしたのは、告白した時以来。まだ数週間しか経っていないけど……もう随分昔のことみたいに感じてしまう。
ふにふに、と唇を押しながら、記憶の中のキスの感触を探す。
記憶の実ちゃんの舌を思い出しながら、指先を口の中に入れて、自分の舌を弄くってみる。
実ちゃんの舌じゃないって分かってるのに、耳に流し込まれた嬌声のせいか、弄れば弄る程体が熱を帯びて行く。
ネコの子のペニスが映し出されて、勢い良く精液が飛び出していく。
そう思ったら、お尻がムズムズしてきた。
もちろん、弄ったことなんか1度もない場所だ。
でも、いずれ使うことになるのなら、慣れておく必要があるかもしれない。
ぼんやりしながら、僕はベルトを緩め、ズボンのジッパーを下ろした。椅子から少しだけ腰を浮かすと、そろり、と舌先を弄んだ手を下着の中に入れて、ゆっくりとお尻の割れ目をなぞってみる。
瞼をきゅっと閉じて、僕はそっとアナルに触れる。ぴく、と反応するその感触に誘われるまま、濡れた指先をーー思い切り突っ込んだ。
これが後に語り継がれることとなる黒歴史、『深夜のネカフェでゲイAV鑑賞中、アナルに指を突っ込んで思い切り叫んで人目を集めた挙げ句、あまりのお尻の痛さに薬局へ駆け込む羽目になった事件』である。