碧人番外編 〈ウラ・イミテーション〉5.デート
文字数 2,258文字
カップルや子供連れで混雑するショッピングモール。
駅で合流した時の軽やかな足取りはどこへいったのか、僕の隣を歩く瞳から一切のやる気が感じられない。
ふん、と鼻を鳴らす瞳。最初こそはこの顔に溜飲を下げたけど、そろそろ別のリアクションが欲しい。
『デート』なんだし。
ちょうど見えたカフェテリアを指差す。ピンクと白の外装は、いかにも女性受けしそうな可愛いもの。形成されている行列は女性の比率が高いけど、カップルらしき姿もちらほら目立つ。僕が知りたい『恋人のデート』を体験するにはちょうどいいんじゃないだろうか。
正確には、聞いてもいないのにハルが勝手に話していただけ。あくまで気が合うダチ同士だからって強調していたけど、あれはどこからどう聞いても惚気話だった。だから、すぐにハルと瞳が恋人関係にあるって知ったんだ。まったく、知りたくなかったけど。
僕の返答に瞳は眉間の皺を更に増やして、はあ、とため息を吐いた。
そう答えると、瞳は瞼を持ち上げ、おもむろに僕の右手を取った。
指と指を絡ませ、僕の顔を覗き込んだ瞳は、既に仮面を被った後だった。
素直に咀嚼すると、瞳が鳶色の目を細めてこっちの様子をじぃっと見つめてくる。
されっぱなしというのも何だか面白くないので、僕もチョコレートケーキを1口フォークに刺すと、瞳へ向けた。
こういうのが世間ではときめくのか。まあ、女性を喜ばせるための演技だし、男の僕が響かなくても別におかしなことではないんだろうけど。
何か、面白くないな。
もっと困らせて、ボロを出させたいよね。どうせなら。
甘いケーキを食べて、僕だけがお腹を膨らませた後。
僕は瞳の手を引いて、様々なお店を見て歩いた。もちろん、『デート』だから単なる買い物にならないよう、雑貨屋ではペアマグカップを選んで瞳に買わせたり、ブティックではそれぞれコーディネートし合ったりと、とにかく密着してみた。そこで瞳が一瞬でも嫌な顔をしようものなら、嫌味の1つでも飛ばしてやろうと思っていたんだけど、瞳は全然そんな素振りを見せない。
そう言って、人目に付かないところでキスを仕掛けてきたり、思わせぶりに腰を撫でたりしてくる。
なるほど、演技力があるのは認めざるを得ない。
けど、僕の好奇心は全然満足してないし、何より瞳の余裕がちっとも崩れないのは癪だ。
不意に立ち止まった僕に、瞳がそっと顔を覗き込んでくる。
雑誌でよく見る完璧な笑顔にイラッとしながら、僕はふん、と鼻を鳴らした。
ストレートにぶつけてみたのは、さすがの瞳も嫌な顔をすると思ったからだ。
だけど、瞳は怒りを露にするどころか驚く素振りも見せずに頷き、
笑みを崩すことなく頷き、瞳が初めて率先して歩き始めた。