0 こんな(ノリの)話です。

文字数 1,886文字

……ふぅ……
(会議、何とか終わって良かった。企画もとりあえずオッケー貰えたし、ひとまず安心かな。副編集長にはここぞってばかりに突っ込まれてちょっと苦しかったけど)

 彼の名は、魚谷小晴。23歳独身(童貞)。駆け出しの雑誌編集者(二年目)である。幼い頃から夢見ていた編集者という職業に熱意を持ち、日々切磋琢磨している。


なーんだ♪ たったの三時間しか経ってないんだ〜。じゃあ、まだまだ『終わらない』なんて結論付けるのは早いよね。日付が変わる頃になっても、パソコンと向き合ってるだろうって予想はついてたし! 予定通り予定通り! さーて、どのくらい残ってるのかなあ?
……まだ、半分も行ってないし……

 そんな小晴の元気の原動力は、従兄弟の水野実治。同い年の実治とは兄弟のように育ち、高校卒業までずっと一緒に遊んでいた。

 しかし、現在、実治は現役モデル、小晴は編集者と別々の道を歩んでいる。そんな二人を繋ぐのは、時折実治から掛かってくる深夜の電話だった。

もしー? 実ちゃんでしょ? もしもーし
『……小晴?』
うん、小晴だよ
『……本当? 間違い電話じゃない?』
いや、自分からしておいて間違い電話を疑うって、おかしい……あっ、実ちゃん、酔ってるでしょ

 会える機会は少ないが、二人の関係は昔と変わらない。それは、きっとこの先も同じはずだ。

 小晴はそう信じていた。

しかし、ある日、実治から「久しぶりに会わないか」と持ちかけられる。

 その再会の場で、実治は思いがけない「お願い」を口にするのだった。


小晴、一生のお願いだ。俺の、恋人になってくれ

 『恋人』。相手が従兄弟の実治だから、とか以前に、恋愛すらしたことのなかった童て……小晴にはピンとこない言葉だった。

 当然、小晴の反応は否定的なもので、

だ、だって、あり得ないよ! 実ちゃんが、僕に恋人になれって言うなんて! 僕が結婚するくらいあり得ない話だよ!
何だよその例え! お前結婚しない気かよ!
今の所、恋人いない暦イコール年齢なんだから、結婚なんて尚更あり得ないって! って、今はそんなことどうでもいいんだよっ! 実ちゃん、物事にはついていい嘘とついちゃいけない嘘があるんだよ、知ってる?!
そうだよ、嘘だよ!
ほら! やっぱり嘘じゃ
俺が頼んでるのは、嘘の恋人になってくれって話だよ!
えっ
えっ

『嘘の恋人』を演じて欲しい。そもそも、何故そんなことを頼むのか。

 その経緯は本編で確かめよう!


 しかし、嘘とは言え、『恋人』を演じなくてはいけない。それは、やはり童て……小晴には未知の領域である。


小晴ぅ……頼むよ、一生のお願いだからっ
うっ

 甘えん坊な従兄弟のお願いに、昔から逆らえない小晴。

 結局、このお願いを叶える羽目になってしまう。

 たった1日だけの恋人。そう、1日で終わるはずの関係だった――。

やっぱり、嘘なんてダメだよ。本物の恋人の応援じゃなきゃ、実ちゃんは書けないんでしょ……? ほら、見てよ、この真っ白な原稿……終わらせる気なんて、実ちゃんにはないんじゃないの?
……っ違う……俺は、まだやれる!
さようなら、実ちゃん。僕は僕を必要としてくれる人(作家)の所に行かないと……
っ待ってくれ、小晴! 俺にはお前が必要だっ! お前っていう、ケツたたき役がいねえと、俺はこの原稿を終わらせられない!
嘘……
嘘じゃないっ! 小晴、俺の傍にいてくれよ、頼むからっ!
……とりあえず、その手に持ったゲーム機のコントローラーを置く所から始めようか

 何度もすれ違いながらも、「嘘」を越えた関係を深めて行く二人。

 しかし、数々の試練が二人に襲いかかる。


……どうして……? こんな……っ、こんなことになるなんて聞いてないよ、実ちゃん!
……バカだよな、俺……こんなことになるなら、お前にもっと……ウッ
実ちゃん、しっかりして! 死にそうなフリをしても、目の前の〆切は待ってくれないよ!
……ぐぅ
実ちゃーん!!

 テンパる小晴。爆睡の実治。終わらない原稿。

 そんな彼らに迫り来る、終末の使者<デッドライン>

ま、待って下さいっ! 実ちゃんはまだやれます! 僕も一緒に頑張りますからっ! だから、お願い、連れて行かないでっ!
むにゃむにゃ
ね、寝てません! これは、今から本気を出す時の顔です! 実ちゃん、起きてー!

 果たして二人は、脱稿という名のゴールテープをぶっち切ることができるのか!


 『イミテーションから始めよう! 第1話 原稿の応援してくれる二次元の嫁(男)が欲しい』

 乞うご期待!

今回は予告(と言う名の茶番)編です。次回投稿の1話はタイトルも展開も多少異なりますので、ご了承下さい。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

魚谷小晴(うおたに こはる)

駆け出しの雑誌編集者。23歳。

何事にも一生懸命で人当たりもいいが、時折恐ろしい程の鈍感っぷりを発揮することがある。(主に恋愛関係において)

恋愛経験ゼロ。ファッションセンスもゼロ。

多分、ノンケ。

従兄弟の実治にいつも振り回されていて、彼の「お願い」を拒めない。



水野実治(みずの さねはる)

小晴の従兄弟。小晴からは「実ちゃん」と呼ばれている。23歳。

「ハル」という芸名で、ファッションモデルとして活動中。

ゲイであり、現在、モデルの恋人がいるらしいのだが……?

負けず嫌いで、ややワガママなところがある。

日和 智(ひより さとし)

小晴の上司。47歳。

小晴の母親(作家)の元担当であり、小晴が編集者に憧れるきっかけを作った人物でもある。

物腰が柔らかく、口調も穏やか。が、仕事に対しては厳しく、笑いながら容赦ない言葉を吐くこともある。

木谷新二(きたに しんじ)

小晴の職場に隣接しているカフェ「うのはな」でアルバイトをしている大学生。21歳。

小晴の高校生の時の後輩。

誠実で生真面目だが、動揺すると顔や行動に出てしまう。恋愛経験が乏しく、それ絡みの話にはウブな反応をする。

如月瞳(きさらぎ ひとみ)

実治の恋人。実治と同じ事務所に在籍するモデル。24歳。

ゲイ。タチ専門。

実治とは同じ時期にモデルデビューした経緯があり、ライバル兼友人としての付き合いが長い。最近はドラマや映画など、俳優としても活躍中。

実治曰く、性格は「すげー最悪」。

美樹碧人(みき あおと)

実治、瞳と同じ事務所に在籍する新人モデル。20歳。

仕事の時は笑顔を絶やさないが、普段は感情の起伏が乏しい。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色